研究課題/領域番号 |
22360021
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
倉橋 光紀 独立行政法人物質・材料研究機構, 極限計測ユニット, 主幹研究員 (10354359)
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キーワード | 表面・界面物性 / 化学物理 / 原子・分子物理 / 磁性 |
研究概要 |
酸素分子は自然科学のあらゆる分野において最も基礎的かつ重要な分子の一つであり、酸素分子と表面の相互作用は、触媒反応、腐食、ゲート絶縁膜形成等と深く関わる点、極めて重要である。本計画では、単一スピン・回転状態を選別した三重項酸素分子ビームを開発し、酸素分子/表面相互作用の量子状態依存性を明らかにすることを目的としている。 本年度は、運動エネルギー可変(0.1-0.4eV)単一量子状態選別酸素ビーム源と既存の超高真空容器を組み合わせた表面計測装置の試作、およびこれを用いた予備的な酸化反応実験を行った。測定技術に関しては、六極磁子による収束効果のため、ビーム生成に用いる混合ガス中の酸素分圧が低い場合でも、電離真空計を用いた全圧法で表面反応計測を行える点を見いだした。本手法および試作した表面反応計測装置を最も代表的かつ半導体産業で重要な酸化反応であるシリコン(100)表面酸化反応に適用し、非常に明瞭な立体効果を示し、かつ信号対雑音比の大変良い実験データを得ることができた。そして吸着確率の並進エネルギーおよび温度依存性の解析により、前駆体にトラップされる過程には立体効果がないこと、直接過程では分子軸が表面平行に近い分子のみが解離吸着に寄与していることを明らかにした。これにより単一回転状態選別酸素ビームと磁場制御を用いた酸化反応立体効果の新規計測手法を確立することができた。学会発表、誌上発表、プレス発表を行い、2012/4/27の日刊工業新聞に成果が紹介された。また本年度後半にはSi実験の経験を踏まえ、表面反応計測用新チャンバーを設計製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記(1),(2)の点においては、本計画は予想以上に順調に進んでいるが、(3)の点では少し遅れている。 (1)既存の容器を用いた予備実験段階で、酸化反応に大変クリヤーな量子状態依存性を示すことができ、本手法が原理的に正しいことを証明できた。これにより本計画全体の見通しが大変に良くなった。(2)四重極質量分析計による表面反応量子状態依存性計測は難しいと考えていたが、電離真空計法の利用により低コストでこの問題を解決できた。(3)昨年度製作した0.1-1eV程度のエネルギー領域で速度可変な酸素ビーム源のテストが現時点では進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である今年度、以下の3点について重点的に研究を進める予定である。 (1)運動エネルギー効果の検証:Si表面への酸素吸着確率は分子軸が表面平行と垂直で異なることを見いだしたが、0.1-0.4eVのエネルギー範囲で両配置の差は運動エネルギーに殆ど依存していない。今年度製作する高速状態選別ビームにより、垂直配置における活性化障壁の値を見い出す。(2)面内効果の観測:表面が一次元的である場合、酸素分子軸が表面x方向とy方向でも反応性が異なると期待されるので、本技術によりその検証に取り組む。(3)スピン効果の検証:本ビームでは分子スピンの向きを指定できるので、強磁性体表面を用い、表面反応におけるスピン相関の有無を検証する。
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