スピン偏極発光ダイオードの活性層への応用を目指して量子ドットのキャリアスピン緩和過程を調べた。これまで我々は、量子ドットのスピン偏極の大きさやスピン緩和時間を測定するために、円偏光を利用したフォトルミネッセンス測定を行ってきた。しかし、フォトルミネッセンス測定では、量子ドットの埋め込み層であるGaAs層に円偏光で電子を光励起し、量子ドット中にエネルギー緩和した電子のスピン偏極やスピン緩和時間を測定する。このため、エネルギー緩和中にスピンの偏極率が下がるという欠点があった。本研究ではもっと直接的なスピンの情報を引き出すために、ポンプ・プローブ法を用い、InAs高均一量子ドットの中に電子を直接光励起し、そのスピン緩和過程を観測した。その結果15Kで1.7nsという遅いスピン緩和時間を持つことが明らかになった。さらに詳しいスピン緩和の振る舞いは、次年度以降に解明を試みる予定である。波長1ミクロンより長波長ではストリークカメラの感度が劇的に低下するので、波長1.3ミクロンより長波長の発光を持つ量子ドットのスピン緩和の測定は困難であった。ポンプ・プローブ法による量子ドットのスピン緩和の観測が可能になったことによって、今後は波長1.3ミクロンより長波長のバンドギャップを持つ量子ドットの測定も可能になった。この測定上の意義は大きい。 本研究ではまた、スピン偏極発光ダイオードの活性層になりうる可能性のある半導体材料として、PVKまたはPMMA層に埋め込まれたCdTeナノ粒子、GaInNAs/GaAs多重量子井戸、Ge基板上のInGaAsバルク、コラムナー量子ドットなどの発光特性やスピン緩和時間も測定した。
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