研究課題/領域番号 |
22360035
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
人見 啓太朗 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60382660)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ガンマ線検出器 / 化合物半導体検出器 / 陽電子断層撮影法 / 位置検出器 |
研究概要 |
平成25年度は前年度までの成果を元に製作した臭化タリウム(TlBr)検出器の特性評価を中心に研究を行った。育成したTlBr結晶の一様性を評価するために陽極に4つのピクセル電極を持つガンマ線検出器を製作した。それぞれのピクセル電極を電荷有感型前置増幅器に接続し、出力信号波形の取り込みを行いガンマ線スペクトルの測定を行ったところ、全てのピクセルから一様な応答が得られた。このことから、前年度までに確立した結晶育成方法を用いることで、均質なTlBr結晶が育成可能であることが分かった。また、このピクセル電極を持つTlBr検出器は室温において662 keVのガンマ線に対して1%台という非常に高いエネルギー分解能を示した。TlBr検出器はさらに高エネルギーの1332 keVのガンマ線も1.3%と非常に高いエネルギー分解能で検出できることが分かった。TlBr検出器は室温で動作し、シンチレーション検出器を凌駕するエネルギー分解能を示すため、PET装置への応用だけではなくガンマ線スペクトロメータとしての応用も期待できることが分かった。さらにTlBr検出器の安定性の評価も行った。検出器を室温で連続48時間動作させて、662 keVのガンマ線スペクトルの測定を行ったところ、検出器は安定に動作し、特性変化が見られなかった。PET装置は医療現場に於いて実際に使用される場合は8時間程度安定に動作すれば実用上は問題ないと考えられる。このことから、TlBr検出器はPET装置へ応用した場合十分に実用に耐える安定性を有していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は臭化タリウム(TlBr)半導体検出器の実用化を目指す観点から検出器の特性評価を中心に研究を行った。半導体検出器を実用化する上で重要な検出器応答の結晶内一様性を評価するため、ピクセル電極を持つ検出器の製作を行い、スペクトル応答の一様性を確認した。製作した検出器は全ピクセルに於いて一様な応答を示したことから、結晶の一様性、検出器製作過程の一様性を確認することが出来た。この様に、一様な特性を示すTlBr検出器を製作する技術を確立できたことから、本研究が順調に進展していることが分かる。さらに、一様な検出器応答はエネルギー分解能の改善にも貢献し、室温に置いて662 keVのガンマ線に対して1%台のエネルギー分解能を示す検出器を開発することが出来た。662 keVのガンマ線は検出器結晶中でほぼ一様に相互作用するため、このように高いエネルギー分解能は結晶の非常に高い一様性を示している。このことからも、検出器開発が順調に進展していることが分かる。 検出器の安定動作は実用化にとって不可欠であるため、検出器の安定性の評価を行った。検出器を連続で48時間動作させてガンマ線スペクトルの測定を行ったところ、TlBr検出器は非常に安定に動作することが分かった。このように開発したTlBrセンサーは通常のPET装置への応用が十分に可能な時間安定に動作することがわかり、このことからも、研究が順調に進展していることが分かる。 以上の様に高い一様性と長時間安定動作を実現するガンマ線センサーの開発に成功しているため、本研究課題の進捗状況は順調であると結論づける事ができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTlBr結晶の大口径化を実現し、検出器の大量生産実現へ向けた研究を行っていく。TlBr検出器の実用化にはセンサーの高性能化と共に検出器製作の低コスト化が重要となる。半導体デバイスのコストはその母材となる半導体結晶の口径に依るところが大きい。このため、現状の帯溶融法による結晶育成口径の大型化や垂直ブリッジマン法を用いた結晶育成口径の大型化を目指して研究を進める。 結晶を大型化した際には結晶の一様性が重要となってくるため、現在までに開発した方法を用いて育成した結晶の一様性について評価を行う。特に検出器のガンマ線応答特性の一様性及び電子・正孔の電荷輸送特性の一様性について評価を行う。結晶の一様性の評価結果を結晶育成方法へフィードバックすることにより、均質なTlBr大型結晶の育成を目指す。 検出器結晶の大口径化と同時に検出器製作技術の高度化についても検討を行う。検出器の更なる高性能化を実現するために電極の形成方法についても検討を行う。電極を形成する結晶表面の処理方法や電極形成温度など複数のパラメータを用いて高性能検出器を効率的に生産する方法の確立を目指す。 検出器の実用化に欠かせない検出器の安定性についても更に評価を行う。室温、低温といった検出器動作温度を変化させて、検出器の安定性の評価を行う。テストを繰り返し行うことにより、TlBr検出器が安定して動作する最適条件の確立を行う。 以上に示した結晶の大口径化、検出器製作方法の最適化、検出器安定性の向上を行い、TlBr検出器の実用化に向けた研究を推進する。
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