超高空間分解能を有する陽電子断層撮影(PET)装置を実現するために、化合物半導体臭化タリウム(TlBr)を用いた半導体ガンマ線センサーの開発を行った。今年度は研究の最終年度であるため、実用化を目指した研究を中心に取り組んだ。 検出器を実用化するためにはその低コスト化が重要となる。このため育成結晶の大型化を試みた。また、検出器製作方法の最適化も行った。その結果、5 mm × 5 mm × 5 mmのTlBr検出器を安定的に製作できる技術を確立することができた。 検出器の実用化に欠かせない検出器特性の安定性の評価を行った。前年度までの研究でTlBr検出器は室温において48時間連続に動作させても特性変化が見られないことを確認している。今年度は検出器を電子冷却素子を用いてマイナス20度程度に冷却してその特性の評価を行った。冷却により検出器の安定性は飛躍的に伸び、約2ヶ月間連続動作させても特性に大きな変化が見られないことを確認した。 また、TlBr検出器のエネルギー分解能を決定する重要な基礎特性の一つである電子正孔対生成エネルギーの測定を行った。電子正孔対生成エネルギーの測定には100%の電荷収集効率が求められるが、その実現は困難である。そこで本研究では電荷収集効率の補正を行うことにより電子正孔対生成エネルギーの決定を行った。その結果TlBr結晶中における電子正孔対生成エネルギーの値は5.5 eVであることが分かった。得られた値は理論値よりも低く、TlBr検出器がガンマ線検出器材料として大変有望であることが改めて示された。
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