液晶やゲル、ミセルや分子膜など分子集合体が形成する生体系などの複雑流体は、自己組織化的に高度に秩序化された内部構造を形成する。これらの物質群はソフトマテリアルとも呼称されるように、温度や電場・磁場などの外的刺激に応じて容易にその構造を変化させ、さまざまな機能を発現する。近年、これらの性質を新しいミクロデバイス材料へと応用しようとする試みが盛んに進められている。本研究の目的は、我々がこれまでに培ってきた微小液滴の吐出・衝突・融合化技術ならびにその変形・回転運動の高時間分解能観察手法を用いて、μmサイズの流体のレオロジー物性を研究する「超高速変形ナノレオロジー計測工学」を創生し、その基本要素技術を産業界における汎用の計測ツールとして供与することを目的とする。本年度は昨年度までに確立したマイクロカプセル作製技術をさらに高精度化するため、誘電パルスの印加により射出後の液滴列の飛翔方向をリアルタイムでモニタリングしながら立体角内で調整する技術を開発した。現在、液滴の進行方向を角度30度程度偏向させることができる。この技術の延長として生成された毎秒10万個のカプセル列から誘電パルス力を用いてその一個のみを取り出し、さらに別の電極対により急制動して静止させ、その後の液滴の形状や力学物性の時間変化を長時間にわたって画像で測定する要素技術を開発した。マイクロメートル径の液滴の制動技術はバイオカプセル生成などの産業応用のみならず、広く一般の液体のナノ秒領域の力学物性と構造の観察に大きく貢献するものである。
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