研究概要 |
最終年度においては,生体組織の伝熱の式をハイパーサーミアや凍結手術における温度場の予測に活用すべく検討を行った.プローブと同程度のスケールの血管が及ぼす生体組織温度場への影響を考慮すべく,マルチスケール解析モデルを導入した.トーチュオシティ,機械的分散および血液灌流については,初年度に定式化したサブスケールモデルを用い,穿刺プローブ近傍の大きな血管についてはその解剖学的分布や配向を考慮すべく3次元で幾何学的に記述した.支配方程式群を連立させ数値解析することにより,ハイパーサーミアや凍結手術時の温度場の時間的進展を予測し得るプログラムを構築した.クライオ・プローブによる凍結過程の予測においては,固定座標を用いることができるエンタルピ法を活用した.これにより,解析精度を向上させることが可能となった. さらに,生体組織の伝熱で得た知見を,人工透析器および人工心肺の血液流動および物質移動現象に適用した.現在主流である中空糸膜型人工透析器(下図左)と中空糸膜型人工肺に注目し,最小仮定多孔体理論(A porous media approach for analyzing a countercurrent dialyzer system, A. Nakayama and Y. Sano, ASME Trans. J. Heat Transfer, vol. 134-7, 072602, 2012)に基づき,膜内の微細構造モデリングと中空糸群の異方性多孔体モデリングの両者の融合から成る多重スケールモデリングを提案した.これにより,膜内の微視的輸送特性と中空糸群まわりの巨視的流動輸送特性の双方の観点から中空糸型人工臓器を評価し,最適化に至らしめることができることが分かった.人工心肺においては,熱制御も性能評価の重要な指針となることから温度場についても検討を行った.
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