研究概要 |
パラメトリックスピーカは,強い超音波を用いて可聴音を空間内に再生する音響機器で,超音波が120 dBの音圧レベルに達することがある。瞬時に,130 dBを超えることもあり,105あるいは110 dBともいわれているヒトの耳の音圧許容値を超えることがあり,超音波暴露の観点から,キャリア超音波の音圧レベルを極力下げる工夫が求められている。前年度に引き続き,この問題に対し,パラメトリックスピーカのエミッタ(送波器)の開口を4つ以上に多分割して,そこから互いに逆相のキャリア超音波を放射する(以下,位相反転駆動方式という)して,超音波の音圧レベルの低減化を行った。特に,今年度は各開口の音圧振幅にウエイティングを付けて,広い受聴領域で超音波の音圧レベルを下げる工夫を行った。その結果,再生可聴音の超指向性という特長は生かしつつ,超音波キャリアの音圧レベルを従来よりも10 dB以上減らした。この際に興味あることとして,差音の高調波は位相反転駆動によって10 dBほど改善できた。このことは,新方式で,音声明瞭度の向上が期待できる。また,同時に超音波暴露の問題も回避できる指針を得た。つぎに, パラメトリックスピーカを2チャンネルで駆動し, そのときの音像定位を聴取実験で調査した。その結果, ダイナミックスピーカを条件としたときと比べて,水平方向の音像は比較的内側に定位し, 先行音効果の影響を受けにくいことが示された。鉛直方向に関しては, 20 cmほど上に定位することも分かった。また, 聴き取り調査に関しては, 多くの被験者からヘッドホンにも似た頭内定位を感じたという報告があった。結果として, パラメトリックスピーカの2チャンネル駆動では,従来の動電型スピーカに比べて,より広範囲で良好な音像定位が得られ, また, 聴こえ方に関しては立体音響等への応用の可能性が示唆された。
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