研究概要 |
本研究では,近年社会的問題となっている乳がんの治療精度向上を目指し,術中に温度分布を推定する温度分布シミュレータを規範とした乳がんRFA(ラジオ波焼灼療法)治療支援システムの開発を行うことを目的としている.平成22年度の研究実績は以下の通りである. (1)臓器の熱物性値の取得とそのモデル化 温度分布シミュレータを構築する上で重要となる乳房の力学的基礎特性に関するデータを取得し,乳房の粘弾性モデルを構築した. (2)温度分布シミュレータの構築 乳がん用温度分布シミュレータを開発するにあたり,まずは組織が均質で複雑性がない肝臓を対象に,有限要素法を用いて温度分布シミュレータを開発した.シミュレータでは,電磁気学的見地からRFA用の電極針から印加される電圧を基に肝臓全体に形成される発熱量を算出し,算出された発熱量を基に生体熱輸送方程式から温度分布を算出した. (3)In vitorにおけるシミュレータの精度評価実験 開発したシミュレータの精度評価を行うため,摘出したブタ肝臓に対するRFA焼灼実験を実施し,肝臓の温度についてシミュレーション値と実測値を比較した.シミュレーションでは2次元ブタ肝臓モデルを構築しモデル上辺より中央まで穿刺したRFA針先端20[mm]から30[V]を印加した際の温度分布を算出した.この際,境界条件として,モデル周囲の温度を体温を想定し36℃に設定した.一方,肝臓モデルと同様の寸法を有する実際の摘出ブタ肝臓を用意し,36℃に一定保持した温水を肝臓の周囲に還流させることで温度境界条件を再現した.実験の結果,実測値と解析値は全ての時間領域について高い精度で一致しRFA中のシミュレーションによる温度の予測が可能であることが示唆された.今後は,血流が存在するIn vivoにてシミュレータの精度検証を行い,さらにシミュレータを規範とした電力供給法を開発する.
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