研究概要 |
本研究は無痛採血および血液検査の完全自動化を目指した蚊ロボットの実現の要素技術として,蚊の針のようにしなやかで柔軟な素材の多重複合針の開発を目的としている。具体的には微細で柔軟な針の複数の部材に研磨等の加工を行うため,加工部に充填した溶媒を凍結して柔軟な針部材を固定化し,凍結溶媒と共に先端を研磨することで高精度な針先を製作できる極低温凍結チャックシステムの開発を行う。 本年度は昨年度行ったペルチェ素子を用いた冷凍チャックの基礎実験結果を踏まえ,スターリングクーラー式冷凍機(冷却能力:173K)を用いた極低温冷凍チャックシステムの製作と評価を行った。チャック部はアルミ製の4つのブロック部品から成り,これらを組み合わせることで内部に溶媒槽を形成した.溶媒槽内にはV字の固定治具を配して針部材を載せ,溶媒槽に溶媒を満たし,針部材を凍結固定した.凍結固定後はブロックの一部を外して部材を露出させ,針部材を凍結溶媒ごとリュータで加工した.チャックの固定力評価のため設定温度-100℃において露出させた溶媒の露出基部から10mmの距離の点をバネ秤にて垂直方向に負荷を与え,溶媒が破壊した際の最大負荷を測定した.その結果,凍結溶媒の強度は1MPa以上の強度があり,実際に加工する際の負荷は10Nに満たないため,十分な把持力であることが確認できた. 次に実際に複数の針部材を冷凍チャックで固定し,同時に加工が可能かを確認するため,直径1mmのスチロール樹脂製半円柱を一対組み合わせ,設定温度-50℃,-100℃にて凍結固定してルーターにて研磨加工を行った.その結果,両設定温度においても加工部材が剥がれることなく研磨加工が可能であった.また加工面にはバリの発生が確認されたが-100℃においてはその発生が著しく抑制できた.スチロール樹脂は低温なほど硬度が増すが,-50℃では部材が加工熱で溶けやすく,加工面にバリとして切粉が付着したと考えられる.加工面を滑らかに仕上げるためには溶媒全体を金属で覆い熱伝導率を高め,覆い材や冷凍溶媒と共に部材を加工する加工時の熱の発生を抑制できると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一目標の極低温凍結チャックの冷凍能力向上と性能評価においてはスターリングクーラー式冷凍機を用いた極低温冷凍チャックシステムを開発し,十分なチャック性能を有することが確認できた。第二目標の血液成分計測用の薄膜電極形成は実際の成形までは達していないものの,成膜設備の整備と評価環境を整備し,最終年度における作業準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は先ず極低温凍結チャックを用いて柔軟な複数部材から成る多重複合針の加工を行う。針の加工は先端の研磨の他,蚊の口針に特有な棘上の歯を左右一対の部分針に形成するようなリュータ加工を予定している。次に作製した多重複合針を用いて蚊の吸血時に見られる動作を模擬した穿刺をシリコーン製モデルや生体組織に対して行い,穿刺力や穿刺対象の変形,損傷の程度などの観点から通常の採血針を用いた穿刺に対する穿刺能の評価を行う。
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