研究概要 |
1)前年度に続いて,Bi-2223パンケーキコイルの交流通電損失について,巻線であるBi-2223テープ線材の外部磁界損失特性を用いて数値解析により予測する手法を検討した。前年度の対象は,液体ヘリウム温度領域で交流通電損失の主要な成分がヒステリシス損失である高磁界用コイルであったが,本年度の検討対象は,液体窒素温度領域で低損失化を図ったツイストを施したBi-2223テープ線材によるパンケーキコイルであり,比較的大電流領域で顕著な周波数依存性が見られた。ツイスト線Bi-2223パンケーキコイルの液体窒素温度領域での幅広い周波数範囲の交流通電損失を隣接ターンの影響までを考慮した解析により,測定結果をかなり定量的に説明できた。このことは,本手法がコイル損失特性の設計に有効な手段となりうることを示唆している。前年度の検討において,特に大電流振幅領域においては,外部磁界と通電電流の相乗効果(同時掃引効果)までを考慮する必要があったが,今回のコイルでは,その効果までを考慮する必要がなかったのは,超伝導フィラメントのヒステリシス損失に対して,周波数依存性が大きな損失成分,(結合損失の一種)が主要な成分となっているためであると考えられる。 2)超伝導テープ線を巻いたコイルに流れる電流は通常、輸送電流と遮蔽電流の2成分を合成したものとなる。輸送電流が流れるテープ線の幅広面に対して垂直な外部磁界が印加されると、テープ面内に遮蔽電流が誘起され、テープ面に垂直な方向に磁化する。この状態で、磁化に垂直な方向に付加的に交流磁界を印加すると、時間とともに磁化が緩和することが知られている。この緩和現象は「異常横磁界効果」と呼ばれる。この異常横磁界効果を酸化物超伝導コイルで実現するために、2つの銅コイルを内外に同軸配置し、それらを逆向きに結線する方法を考案した。この銅コイルに交流電流を通電することで、酸化物超伝導コイルを構成するテープ線の幅広面内に誘起された遮蔽電流を、異常横磁界効果により低減でき,これを利用する実証実験によりコイル中心部に作られる磁界の均一度は大幅に向上することを示した。テープ線によるコイルにおいて,高い均一度をもつ高品質な磁界環境を提供できることを示すことができた。
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