(1) GaAs中の窒素(N)不純物の発光エネルギーの均一化 従来、GaAs中のNによる等電子準位には大きなエネルギーバラつきがあった。そこで、発光エネルギーの揃った単一光子を得るためのドーピング手法の開発に取り組んだ。MOCVD法で種々のガスシーケンスを使ってGaAsにNのδドーピングを行い、PLスペクトルとの相関を調べた。その結果、N原料のジメチルヒドラジン(DMHy)を1原子層のGaで終端したGaAs(001)面上に供給するか、DMHyとGa原料であるトリエチルガリウム(TEGa)を一緒に供給するとエネルギーの揃ったNN_Aなどの輝線スペクトルが観測されることを見出した。また、SIMS分析の結果、輝線スペクトルが観測される成長条件ではカーボン(C)不純物が共存していることがわかった。輝線発光のオリジンとしてN-C複合体の可能性が考えられるが、同定には至っていない。一方、個々のNN_A中心の分光を進めてアンチバンチングを観測し、GaAs:Nからのエネルギーの揃った単一光子発生を実証した。さらに、低温での単一NN_A中心の発光寿命測定が6 nsと長いことも明らかにした。 (2) 等電子トラップ不純物の拡張と発光の高温化 単一光子発生の高温化を目的にGaP中の新たな等電子不純物探索を進めた。[Zn-O]複合中心に着目してDEZnとO2を原料にドーピング手法とPLスペクトルを調べたが、[Zn-O]起因の発光を得るに至らなかった。結晶中へのOの取り込みが少ないものと思われる。そのため方針を変更し、量子井戸でNの等電子準位を挟む構造(GaP/GaAsP:N/GaP)について研究を進めた。マクロPL測定で発光スペクトルの温度依存性を調べたところ、N準位に起因する発光が90K付近まで観測され、単一光子発生の高温化に向けて有望な結果を得た。
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