研究概要 |
マルチコアファイバの最も重要な課題はコア間クロストーク(以下クロストークという)の低減であり、平成22年度において、モード結合理論、パワー結合理論に基づくマルチコアファイバのクロストーク評価法を新たに開発した。特に、パワー結合理論を導入することによって、クロストークがファイバ長とともに増大する実験事実を理論的に初めて説明することに成功した(IEICE Transactions on Communications, vol.E94-B, pp.409-416, Feb.2011)。ところが、クロストークの絶対量には、理論と実験とで、およそ10dB前後の相違があり(IEICE Electronics Express, vol.8, pp.385-390, Mar.2011)、平成23年度においては、理論の精密化に全力を挙げた。具体的には、実際に測定に供されるマルチコアファイバでは、曲げやねじれが存在し、これが理論と実験との相違の主たる要因であるとの認識のもとに、モード結合理論、パワー結合理論のいずれにも曲げとねじれの影響を新たに組み入れた。モード結合理論においては、曲げやねじれのランダムな変動を考慮するため、相関長に対応するファイバ長ごとにランダムな位相オフセットを与える計算アルゴリズムを開発した。一方、パワー結合理論においては、コア間の結合に対して指数型、ガウス型、三角型の自己相関関数を新たに導入し、そのフーリエ変換であるパワースペクトル密度を用いてパワー結合係数を閉じた形で導出することに成功した。このように曲げとねじれの影響を組み入れることによって、絶対量まで含めてクロストークを正確に見積もることが可能になった(Optics Express, vol.19, pp.B102-B111, Dec.2011)。さらに、ここで開発した理論を駆使して、クロストークの低減化に有効なトレンチ型マルチコアファイバを設計、試作し、伝送距離100kmでクロストーク-30dB以下の7コアマルチコアファイバ(Optics Express, vol.19, pp.B543-B550, Dec.2012)、10コアマルチコアファイバ(Optics Letters, vol.36, pp.4626-4628、Dec.2012)を開発することに成功した。
|