研究概要 |
本研究では,2次元ナノカーボン電子系である単一原子層グラファイト(グラフェン)を量子ナノデバイス構築材料として利用するデバイスプロセス技術を開発し,グラフェン特有のバンド構造に起因した特異な単一電子輸送現象とそのダイナミクスを探求する。そして,シート状に拡がったグラフェンの構造を利用して単電子エレクトロニクス,さらには量子情報処理システムのための量子ドットデバイスの集積化と単一電子の電荷・スピン量子状態のコヒーレントな制御を実現することを目的とする。シリコン集積回路の微細化の限界が具体的に見え始めた今,それと相補的な新しいエレクトロニクス創成のために,量子ナノデバイス材料として新規カーボン材料であるグラフェンの有用性を示し,デバイス作製の基礎技術の開発と動作実証をすることによって,"グラフェン量子エレクトロニクス"への分野の基礎を開拓することを目指す。前年度において,従来型のグラフェン量子ドット素子構造とは異なる,新しい構造のグラフェン量子ドット素子の提案とナノ微細加工プロセス技術の開発を行った。これは,従来型の素子構造で問題となるグラフェンの端構造および微小接続部分における構造的な揺らぎとそれに起因する散乱等による電子輸送への影響を避けるためのものである。今年度は,この新しい量子ドット素子の極低温・強磁場環境下での精密量子輸送測定を行った。その実験結果および理論的解析から,金属電極/グラフェン界面において形成されるポテンシャルと試料に対して一様垂直に印加される磁場によってグラフェン中の電子(ディラック電子)が閉軌道を形成し,量子閉じ込め状態が発現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グラフェンに対して現在のトップダウン微細加工プロセスを用いている以上,構造的な揺らぎ,特にエッジ状態の揺らぎは制御できず,これが単電子輸送に対して大きな影響を与える可能性があると考えられている。そこでそれらの影響を避けるために新しい素子構造を提案し,実際に動作実証を試みたところ,金属電極/グラフェン界面において形成されるポテンシャルと試料に対して一様垂直に印加される磁場によって電子を閉じ込める新しい量子閉じ込め効果を発見した。さらにこれは質量0のディラック粒子において実現されると理論的に示唆されている。これは「場」によるグラフェン中のディラック粒子制御という新しいデバイス原理を構築できる可能性を示しており,当初の計画にはなかった新しい展開であり,計画以上の成果である。
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