研究概要 |
二硼化マグネシウム(MgB_2)は高い超伝導転移温度(Tc=39K)を有する次世代の超伝導エレクトロニクス材料である。本研究では、MgB_2ナノ細線からなる超伝導単一光子検出器(SSPD)の開発を目的としている。現在、様々な分野で赤外域における高性能の単一光子検出器が求められているが、最近開発された超伝導ナノ細線を用いた単一光子検出器(SSPD)は非常に高い性能を示し、量子暗号通信など多くの分野で利用が進んでいる。SSPDでは窒化ニオブ(NbN, Tc=16K)を超伝導材料として使用しているが、Tcが低いために極低温(3K以下)に冷却する必要がある。NbNをMgB_2に置き換えることが出来れば高温動作が可能となり実用性が大幅に向上することが期待される。しかし、これまでMgB_2ナノ細線を用いて赤外域単一光子の検出に成功した報告はない。これはMgB_2の超薄膜作製技術、ナノ微細加工技術がNbNほど確立していないためである。我々はMgB_2薄膜の新しい微細加工法として無機材質(アモルファス炭素)を用いたリフトオフ法を開発してきた。本手法は、従来のArイオンミリングを用いたMgB_2微細加工法と比較すると、加工時の超伝導特性劣化を大幅に抑制できるという特徴を持つ。今年度、本手法による微細化を進め、幅100nm、厚さ10nmのMgB_2のナノ細線を作製することに成功した。この細線に光ファイバを通して極微弱光を照射し、光検出特性を評価した。その結果、可視域(波長405nm)から赤外域(波長1560nm)の広い波長域に渡って単一光子を検出することに初めて成功した。今回の結果は、MgB_2ナノ細線を用いた単一光子検出器が作製可能であることを実証しており、MgB_2-SSPD開発に向けた大きな進展と考えられる。
|