本研究は,限られたエネルギーにより効率的な温度制御を行う恒温植物ザゼンソウの温度制御機構を,工学および生化学の両面から解析し,その省エネルギー特性を提供するメカニズムの解明を目指すものである.本年度は,昨年度に引き続き,ザゼンソウの物理モデルを構築し,全体のエネルギーフローを理解することを目指した. 国内の群落地より生体のザゼンソウを採取し,前年度に引き続き,自作した局所温度制御装置等により,ザゼンソウ各部の温度を局所的に変化させたときの温度変化を計測した.また,各器官の熱伝導率を,熱伝導率計測装置を用いて測定した.さらに,根部付近の地中の温度変化も測定した. 茎部の温度変化の実験から,茎部の急激な温度変化は肉穂花序へ良く伝わって,体温制御を行うことが分かった.また,自然環境下での実験から得られたデータの茎部および球茎部の温度変化から,地中の安定した温度が茎部を通して肉穂花序へ伝わり,その体温を安定させる一助になっていると考えられる.さらに,ザゼンソウの各器官の熱特性および応答特性を元にモデルを構成し,シミュレーションを交えて考察したところ,茎部分の熱伝導率に方向性を持たせると,モデルと生体の温度応答特性が一致することが示唆された.茎部分は比較的安定な地中の熱と肉穂花序の熱を効率よく制御するために一役買っていると思われる.
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