研究概要 |
本研究は,社会基盤技術の開発におけるシーズとニーズの乖離という現象が生じる過程を分析する既往理論モデルを臨床的に用いることで,良好な生活空間形成に向けた新しい技術戦略論を提示することを目的としている.平成23年度の主な研究成果は下記の通りである. 1.国内地方都市における地域ニーズ・技術シーズの抽出 事例研究(1)として東日本大震災で甚大な被害を受けた被災地を対象とし,下記i),ii)の現地調査を行った. i)水門・陸閘門の情報システム被害調査 沿岸部の水門・陸閘門等については,遠隔操作システムを含む新規技術が消防団等の危険を回避できるか否かなど,従来より多くの議論があった.本研究では,被災時の水門操作と情報伝達を詳細に調査し,技術導入の際に規定された運用方針と対比させることによって,技術の受容性と実効性に関する検証を行った.主な対象地は,岩手県宮古市田老地区,宮城県山元町,福島県いわき市である. ii)民間企業の事業継続計画の検証 東日本大震災で被災した大手精密機械企業の工場を訪問し,被災時のオペレーションと工場の再稼働に至るまでの復旧作業について聞き取り調査を行った.調査では,マニュアルに拘泥しない柔軟な役割分担,本社グループおよび海外生産体系との協調・連携,地域協力企業の迅速な復旧作業開始を可能にする交通・通信ネットワークの存在等についての重要性が指摘された, 2.発展途上国における革新技術普及についての:事例分析 インド国における保健衛生分野における長年の課題であったトイレの普及を研究対象として取り上げ,大都市デリーのスラム地域に住む住民によって,トイレや野外排泄等の習慣がどのように認知されているかを構築主義的アプローチによって明らかにしようとした.本調査では現地調査によって住民がトイレについて語る言説をデータとして収集し,得られた情報を自然言語処理およびデータマイニングの手法を用いて分析することによって系統的に表出する特徴的な言語表現を明らかにすることに成功した,
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究課題の最終年度として,2年間で得られた知見の現実問題への適用を行い,研究成果を取りまとめる予定である.具体的には,現在開発及び普及が進む社会基盤分野の新規技術に対して,社会的受容性に関するアセスメントを本研究で提案した構築主義的手法(SCOT)によって行う.また,研究成果を発表するための専門家会合を行い,研究分担者および連携研究者を含めた研究グループの成果を取りまとめる.
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