研究概要 |
供用開始後半世紀を越える銅橋が数を増す一方で,維持管理にあてることのできる人材や予算は限られており,鋼橋の維持管理の効率化は極めて重要な社会的課題となっている.鋼橋の安全性を脅かす大きな損傷の一つは疲労である.本研究は,疲労き裂が発生した鋼橋部材が脆性破壊に至るまでの時間的余裕を定量的に予測する技術の開発を目的としている. 平成23年度は,鋼橋の疲労き裂進展挙動の詳細な解明と,限界き裂長の評価手法の確立のための基礎的検討として,実橋梁に生じた疲労き裂を対象とした疲労き裂進展シミュレーションを実施した.対象とした疲労き裂は,鋼床版のUリブとデッキプレートの溶接部に生じるビード貫通き裂である.このき裂は,ある程度の長さまで溶接ビードに沿って進展した後,急激に進展方向を変えてUリブウェブやデッキプレートに進展するという,複雑な進展挙動を示す. シミュレーションは破壊力学に基づくものとし,き裂を導入したモデルに対する応力解析により応力拡大係数を求め,それにより次のステップのき裂進展長さと方向を決定し,き裂を進展させるというプロセスを繰り返すことで実現した. 解析により,このき裂の応力拡大係数をモードI,II,IIIに区別して検討した結果,対象とした疲労き裂においては,全長がある程度長くなると疲労き裂の進展方向が変化する可能性が示され,限られた条件ではあるが,実橋で観察される複雑な進展挙動に対する力学的な分析を行うことができた.
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