研究概要 |
信号交差点の構造や交通信号の運用は,交差点内の自動車や歩行者などの利用者の動線交錯状況や信号の変わり目(インターグリーン)等における利用者挙動,ひいては交差点の安全性・円滑性に大きな影響を与える.しかし,特に交差点における歩行者と自動車との交錯については,利用者の挙動に関する知見が十分とはいえない.本研究は,信号交差点における歩行者と自動車との交錯について,道路構造や交通運用に応じた安全性を定量的に評価するための手法の提案を目的とする.二年目である平成23年度は,主に歩行者挙動についてより詳細な分析を行うとともに,歩行者に対する車両の回避行動を分析・モデリングした. 歩行者単体の挙動に関しては,特に青点滅から赤現示(クリアランス時間)にかけての歩行者の駆け込み行動が危険という認識のもと,まず青点滅切り替わり後に歩行者が横断するか否かの意思決定行動について,現示切り替わり時の歩行者の位置や速度,横断歩道長との関係を分析した.また,青点滅の残り時間や横断歩道長と横断速度との関係についても分析した.これらの結果をもとに,歩行者挙動の定量的なモデル化を行った. 歩行者に対する車両の回避行動としては,歩行者と交錯する左折車両が横断歩道手前で停止するか否かの判断と,歩行者の到着ギャップ/ラグとの関係を分析した.歩行者が車両と反対方向から接近する場合の方が,同じギャップでも車両の停止確率が高くなることなどが示された. 昨年度構築した左折車両の単独挙動モデルと,今年度のモデルを組み合わせることで,時々刻々と変化する歩行者の位置に対して車両が停止/通過判断と速度調整を行う挙動モデルを構築した.モンテカルロシミュレーションの結果,安全性指標であるPET,車両の横断歩道通過速度分布等をよく再現していることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,車両と歩行者の相互作用モデリングを当初の目標としており,歩行者の位置・速度に対して車両が停止/通過判断と速度調整を行うモデルが構築できた.車両に対する歩行者の反応については,車両側の挙動変化に比べて相互作用による歩行者側の挙動変化は小さく,それよりも信号灯器の影響が大きいと考えたため,幾何構造・信号現示への反応に重点を置いて定量化を行った.これらのことから,ほぼ当初計画通り順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,安全性能(潜在的危険性)の定量的評価手法の開発,および交差点利用形態に応じた信号制御と道路構造の安全性評価を行ったうえで,交差点利用形態に応じた信号制御と道路構造の合理的な設計手法を最終的に提示することを目標としている.これらにあたり,実際の交差点での事故データ,幾何構造・信号制御データとビデオ観測データを既に入手しているほか,構築したモデルを表現するためのプラットフォームの構築も進んでいる.実際にモデルを各種交差点に適用することで,シナリオごとの交錯状況の変化と事故データとの関連性を分析していく.
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