建物室内の換気・空調を効率的に行うことは省エネルギー・省CO2の面で非常に重要である。このため、CFD解析により室内の気流や温度分布を事前に予測し、この結果を設計に活かすことが多い。ただし、通常のCFD解析では、人体などの移動物体による気流の擾乱を無視している。しかし、一般に室内には人体などの移動物体が存在し、これにより換気効率・空調効率が変化する。本研究の目的は室内気流場のCFD解析に移動物体の影響を組み込む方法を確立することである。 前年度までは、実験室内に人体の移動を模擬した移動パネルを設置し、移動パネル周辺の気流分布を測定した。平成24年度には実験室中央にIHレンジを設置し、湯を沸かし、熱上昇流を発生させ、移動パネルによる擾乱により熱上昇流がどのように変動するかを測定した。また、CFD解析については、前年度までの成果に基づいて検討を進めた。 測定結果では、移動パネルによる擾乱によりIHレンジ上の熱上昇流は左右に揺れ、排気フードによる捕集性状が変化することを確認した。すなわち、排気フードに代表される局所排気装置の効率は人体などの動きにより低下し、室内の温熱・空気環境を検討する上で、人体などの移動物体を考慮する必要性が高いと考えられる。また、この状況はCFD解析でほぼ再現できた。 本研究で検討したCFD解析を以下の2つの事例に適用した。地下鉄駅構内の温熱・空気環境を検討するために列車を移動物体として扱い、列車風を利用した自然換気の効果や、ホームドアによる冷房空気の線路部への漏出の防止効果を示した。また、空間分煙がなされているレストランの客席では従業員などの動きによりタバコ煙が拡散・移流されることが問題となるが、これについてもCFD解析により検討した。
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