建築物がどのように作られ、使われ、変更され、そして、どのような性能、機能が発揮されてきたのかという資料・記録類(建築履歴データ)は、建築物を持続的に活用していくために重要な情報である。研究の最終年度にあたり、前年度までに得られた以下の成果を実建物に適用して検証したうえで改良することを試みた。 1)履歴データからどのように意味情報を読み取り建築のライフサイクルマネジメントに関連する知識を構成していくのかを解析・推論するプロセス(欠損データの補完・推定手法も含む) 2)上記のような推論プロセスを成立させるためには、どのような形式の建築履歴データをどのように収集し整理しておけばよいのかにかかわる指針 検討にあたり、特に焦点をあてたのは、建築のユーザーがライフサイクルマネジメントにおいて意志決定するための手がかりとなるインジケーターがどれだけの粒度で得られるのか、そしてそのインジケーターがライフサイクルマネジメントにどのように資することになるのか、という点である。その結果、ひとくちにインジケーターといっても、供給者側で意義を有するものと、ユーザー側で意義を有するものが存在することが明らかになった。そこで本研究の目的に鑑み、履歴データをもとにユーザー側で意義をもつインジケーターを導くための推論プロセスを整理し、上記の1)、2)の成果に改良を加えた。 加えて、ユーザー側で意義をもつインジケーターの一つである、カーボン・メトリックにかかわる国際規格の制定作業が始まったことから、本研究の成果が国際規格にも反映するように成果の発表・紹介に努めた。また逆に、国際規格策定にかかわる議論の場で得られた示唆をもとに、履歴データの開示・解析及び報告のあり方に関する知見を整理した。
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