今年度は最終年度として、継続的に現地調査を実行し、さらに4年間の研究成果を統括することを目標にした。まず現地調査では引き続き戦前でアジア最大と誇った炭鉱都市である撫順において実施した。昨年実測した撫順の新屯西街にある5種類の日本人住宅類型を補足実測し、新たに新屯東街に2種類の住宅類型の存在を確認するとともに、撫順市の中心市街区にある2種類の住宅をも実測した。実測は、トイレや風呂の設備、食器棚、畳と床の構造、ラジエーターなど、住戸内設備の状況も把握した。 その上で、実測した住宅の歴史的な位置付けを検討した。満鉄住宅の標準平面と照らし合わせて、撫順市で採集した計9種類の住戸プランは、甲、乙、丙、丁の四種類に当たると判断された。さらに、住戸プランは同じく丙型(6畳+6畳+4.5畳)、丁型(6畳+4.5畳)であっても、住棟形式は連棟式(ローハウス)、片廊下式や階段室型と多様であることを示した。また、同じ住棟形式の住戸プランが中庭を中心に逆転配置され、中庭が隣棟間のコミュニケションの場として機能させる手法も発見した。すなわち、満鉄住宅は住戸プランを標準化したが、それを左右や前後に対称するように変化を付け、さらに住戸プランの組み合わせ方法(集合方法)の変化によって住棟形式を多様化させていることを明確にした(内階段式・片廊下式・階段室式、による住棟方式の組み合わせ/住棟の仕上げ材もセメント・煉瓦、両材料の組み合せ)。住戸プランを標準化しつつも、豊かな住宅地景観を造り出す近代的手法で住宅地が計画されていたことを本研究は明確にした。また、団地内に学校や公園、クラブ、消費組合を設け、近隣住区を意識した計画手法の実際も確認した。 満鉄の住宅地計画と住棟設計は、戦前期日本における時代を先取りした設計手法が試みられ、実践されていたことを本計画は明らかにした。
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