研究概要 |
窒素ラジカル支援真空蒸着法に斜め堆積法を適用し,微絨毛状のナノ構造を有する窒化インジウム(InN)薄膜を作製した.作製膜において,波長680nmで最大の透過率変化(ΔT)約40%を示す,吸着誘起型エレクトロクロミック(EC)現象を確認した.EC繰返し耐久試験の結果,ΔTの値は,色変化の繰返しに伴い徐々に減少するが,試料によるばらつきが数十回~数千回以上と極めて大きいことが確認された.今後,材料破壊試験等に利用されるような統計的データ解析が必要である.どの試料にも共通した傾向として,カソード分極時(明色側)の透過率低下が顕著であり,アノード分極側(暗色側)の劣化は全く見られなかった.EC繰返し耐久試験後の試料には,大きく分けて2種類の明らかな膜劣化が観察された.第一の劣化は,電解液面付近の膜の透明化であり,調査の結果,InNの酸化インジウム化が起こっている可能性が示唆された.電解液中の溶存酸素が,有力な劣化要因であると考えられる.第二の劣化は,部分的な明色化の阻害である.ただし,結晶学的変化や,明確な膜剥がれ等の巨視的構造劣化は見られなかった.吸着誘起型EC現象のメカニズムに基づけば,暗色化時の挙動に全く劣化が見られないことから,膜の有効表面への,キャリア電子または陽イオンの供給に,何らかの阻害因子が発生したと考えられる. また,酸化インジウム・スズ(ITO)薄膜を反応性スパッタリング法により作製し,InNと同様の吸着誘起型EC現象を確認した.
|