本研究では、SrTiO_3薄膜を活性層とする薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、ゲート電圧印加によって誘起される二次元電子(2DEG)層の巨大熱電能Sを利用した赤外線センサーの試作を目指している。具体的には、熱的ド・ブロイ波長λ_Dよりも薄い半導体極薄膜上にトップゲート型薄膜トランジスタを作製し、次にゲート電界印加によって形成される極薄2DEG層の電子輸送及び5を詳細に測定・解析し、さらに極薄2DEG層の赤外線センサー特性を調査する。H22年度はSrTiO_3とともに各種酸化物半導体を活性層として薄膜トランジスタを作製し、その熱電能の電界変調挙動を調べた。アモルファスInGaZnO_4やIn_2MgO_4、アナターゼ型TiO_2などの酸化物半導体薄膜を活性層としたTFTのS値電界変調挙動から、これらの半導体には本質的に構造のランダムネスが存在し、伝導帯下端に裾状態が存在することが分かった(Applied Physics Letters 2報に掲載)。裾状態が存在する薄膜では巨大熱電能は観測されなかった。また、SrTiO_3薄膜を活性層とした場合には、基板結晶の表面電位によって伝導電子の蓄積/掃き出しが起こることがわかってきた(論文投稿準備中)。すなわち、基板の表面電位が正の場合は、絶縁体のはずのSrTiO_3薄膜に電子伝導性があり、逆に表面電位が負の場合は、TFTとして大きなゲート電圧を印加しなければ電子伝導性が得られないことが分かった。SrTiO_3-TFTでは、基板結晶界面の電位差とゲート絶縁体にかかるゲート電圧の両方がSrTiO_3薄膜に印加されることになる。以上の結果を踏まえ、現在は表面電位がゼロに近い基板結晶上に作製したSrTiO_3薄膜の電子輸送特性を計測中である。
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