アルカリニオベート系単結晶KNbO3,Na0.5K0.5NbO3の相転移とこれに伴う物性変化を構造的立場から総合的に解明した.精密高温単結晶X線回折実験から,Nb原子の配位数や自発分極の温度依存性を明らかにした.また自発分極の大きさに寄与する各陽イオンの役割を定量的に明らかにした.常誘電相である立方晶に対してグラムシャリエ級数展開法を用いた非調和熱振動解析を行い,連結確率密度分布関数を求め,さらにボルツマン分布を仮定して一体ポテンシャルを決定した.これらの解析結果から,KNbO3系の常誘電相には,-O-Nb-O-Nb-原子鎖に沿った酸素原子の一次元の強い相関が存在することを明らかにした.これは強誘電相転移点直上において,常誘電性の立方晶母相中に強誘電性を示す微小正方晶ドメインが核生成していることを示唆していた.これらアルカリニオベート系強誘電体結晶の解析に平行し,関連する層状ぺロフスカイト系強誘電体等,種々の複合酸化物結晶の合成と解析を行い,新しい無鉛系材料の開発を進めた.なお,このような複合酸化物強誘電体の結晶合成に際し,出発原料として通常用いられる各種炭酸塩の高温における熱分解の振舞が合成結晶の物性に影響を及ぼす可能性がある.そこで代表的炭酸塩結晶の熱分解挙動を高温X線単結晶法により調べた.この過程で,地球上に遍在する炭酸カルシウム(方解石)の高温相の構造を初めて決定し,方解石の高温相に関する百年の謎を解くことができた.また,測定機器の精度向上を図った.
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