研究課題/領域番号 |
22360273
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
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研究分担者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50314240)
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
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キーワード | 酸化物磁性体 / 薄膜 / スピントロニクス / 磁気光学 / マルチフェロイクス / 磁化 / 電気伝導率 / 誘電率 |
研究概要 |
酸化物磁性体薄膜を対象に、磁性イオン周辺のサブナノ構造を制御し、また、原子レベルで平滑な薄膜を合成することによって、短波長磁気光学、スピントロニクス、マルチフェロイクスの分野に関連した新物質・新材料を開拓し、新規スピン機能を持つデバイスへ展開すること目的としている。磁気光学(ファラデー効果)の観点では、不規則亜鉛フェライトに他の元素を固溶した系を主な対象として、構造と物性の相関を明らかにして機能を引き出す。また、FeTiO3-Fe2O3系などの酸化物磁性半導体について原子レベルで平滑な薄膜が合成できる条件を確立し、スピントランジスタなどデバイスを試作する。さらに、EuTiO3を異なる基板上に成膜して格子不整合を利用した歪みの導入を行うとともに、EuTiO3系固溶体の形成により電子構造を制御して、誘電特性と磁性の評価ならびに物性の起源の解明を行う。今年度は、昨年度の研究で見いだしたEuTiO3薄膜の格子体積と磁化の大きさの関係を、ハイブリッド・ハートリー・フォック密度汎関数法を用いた理論計算の結果に基づいて考察し、Eu2+間の反強磁性的相互作用には空のTi3d軌道が寄与しているという新しいモデルを提唱した。この考え方をEuZrO3、EuHfO3にも拡張して、実験的に得られる磁性を説明することに成功した。また、EuO-TiO2系のアモルファス薄膜に対してX線吸収分光などの構造解析を行い、Eu2+の局所構造がむしろEuOに近いことから強磁性が安定化することを明らかにすると同時に、この系が可視域で大きなファラデー効果を示すことも見いだした。磁性半導体のイルメナイト系では、TMR素子の構築の前段階の構造を持つ多層膜の合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はEu2+を含有した酸化物の電子構造と磁性に関する理論計算において大きな進展が見られた。EuTiO3が格子体積に応じて磁性を変える機構を明らかにすると同時に、この化合物を含む一連のEu2+系ペロブスカイト酸化物における磁気的相互作用のメカニズムに関して新しいモデルを提唱することができた。また、アモルファスEuO-TiO2系では可視域で大きなファラデー効果が得られ、磁気光学効果に関する研究も進んだ。スピントロにクス関連ではイルメナイト系磁性半導体薄膜をベースにしたTMR素子の構築の準備段階まで進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
理論計算において予想を上回る成果が得られているので、最終年度はさらにこの領域を重点的に進めると同時に、計算結果を実験で確証する研究も推進する。具体的には計算結果によって強磁性が予測されるEu2+含有ケイ酸塩やゲルマニウム酸塩の薄膜合成に挑みたい。また、イルメナイト系磁性半導体については当初の目的であったスピン工学素子の一つとしてTMR素子の試作と動作確認までを行う。さらに、磁気光学関連ではアモルファス薄膜については成果が得られているため、フェライト系薄膜への展開を積極的に進める。
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