研究課題/領域番号 |
22360279
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
香山 正憲 独立行政法人産業技術総合研究所, ユビキタスエネルギー研究部門, 上席研究員 (60344157)
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研究分担者 |
前田 泰 独立行政法人産業技術総合研究所, ユビキタスエネルギー研究部門, 研究員 (30357983)
吉川 純 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (20435754)
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キーワード | 表面・界面物性 / 電子顕微鏡 / 走査プローブ顕微鏡 / 第一原理計算 / リチウムイオン電池 / 電極材料 / チタン酸リチウム / 電子線エネルギー損失分光 |
研究概要 |
本研究では、リチウムイオン電池で優れた電極特性を有するスピネル型チタン酸リチウム(LTO,Li_4Ti_5O_<12>)の表面の充放電(Li挿入・離脱)時の詳細な原子・電子構造変化を、表面科学観察(AFM)・電子顕微鏡観察・第一原理計算の三つの連携で明らかにし、電極表面での電気化学反応機構を解明することを目指している。前年度にAFM観察可能な原子レベルで平坦なLTO表面試料の作成技術の確立に成功し、AFM観察を行うとともに、電池セルで電気化学測定を開始した。本年度は、初回充放電サイクル(capacity-voltage曲線)の各時点でのLTO表面構造変化をAFMで詳細に探り、さらに電顕観察を適用した。その結果、(1)初回のLi挿入反応の初期段階で既にLTO表面に構造変化が起こり始め、ラフネスが大きくなること、(2)一サイクル後には、乱れた構造の表面層が形成され、cubicの新規結晶構造が存在すること、(3)こうした表面構造変化が電解質/LTO電極の界面電荷移動抵抗の低下と相関していること、等が見いだされ、また、(4)一サイクル後の表面新規構造はEELS(電子線エネルギー損失スペクトル)観察からα-Li_2TiO_3と推定された。こうした表面層は、SEIのように第二サイクル以降の充放電を安定に行わせる働きが推測される。一方、第一原理計算では、PAW法(QMASコード)を用いて、Li挿入前後のバルク結晶相の原子・電子構造変化、EELSスペクトル変化の第一原理計算を試み、reasonableな結果が得られた。引き続き、実験に対応した表面構造モデルの構築と、表面の原子・電子構造及びEELSの第一原理計算に着手している。また、バインダフリーのナノ構造新規電極開発の取り組みも進めており、集電体(金属箔)への酸化鉄系のナノ構造負極材料の直接作製・成長を試み、こうしたアプローチの可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電極活物質の充放電曲線(capacity-voltage曲線)の充放電過程の各時点での表面構造変化を、走査プローブ顕微鏡観察・電子顕微鏡観察・第一原理計算の三つの連携により、詳細に解明することが、本研究の第一の目的である。H22年度には、優れた負極材料として期待されているチタン酸リチウムについて、AFM観察可能な平坦表面試料の作製技術を確立した。H23年度は、従来からの計画通りに充放電過程での平坦表面試料の詳細観察を行い、表面構造変化について多くの興味深い知見を得た。また、第一原理計算も計画通り、バルク相・表面構造の原子・電子構造やEELSスペクトルの計算で、実験観察結果の解析に貢献している。
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今後の研究の推進方策 |
チタン酸リチウムの充放電過程の各時点での表面構造変化を、走査プローブ顕微鏡観察と電子顕微鏡観察、第一原理計算で詳細に解析する取り組みを、さらに発展させる。充放電過程の表面構造のEELS観察、第一原理計算での安定な表面構造探索とそのEELSスペクトル計算を集中的に進める。また、EELSスペクトラルイメージング法観察で、Li挿入・離脱の反応の進行過程を明らかにする。これらを通じて、チタン酸リチウム表面での電気化学反応の機構・支配因子を解明する。
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