研究課題/領域番号 |
22360281
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
落合 庄治郎 京都大学, 工学研究科, 教授 (30111925)
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研究分担者 |
奥田 浩司 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50214060)
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キーワード | 超伝導テープ / X線回折 / ひずみ / 応力 / クラック / 応力状態測定システム / 超電導臨界電流 / モデル解析 |
研究概要 |
超伝導複合テープは作製・使用時に熱的・機械的・電磁気学的応力が負荷されるため、工業材料としての信頼性設計には、応力場における力学応答特性と、応力状態が超伝導特性や破壊特性に及ぼす影響を定量的に解明する必要がある。本年度は前年度の成果を基に、(A)コーテッド系およびフィラメント系の両コンダクターテープ応用可能な装置へと改善し、実験データの充実を図るとともに、(B)メゾメカニカルモデルによる超伝導テープの力学応答記述法の精緻化とそれを応用した臨界電流の応力依存性の記述・予測法の開発を進めた。 (A)では、材料種別に応じた治具・部品を工夫して装着することによりコーテッド系・フィラメント系の両方が測定できるようにし、興味深いデータを収集できた。DyBCOコーテッドコンダクターテープでは、負荷応力下でDyのL3吸収端近くで強力X線による回折実験を行った。異常分散効果は層識別に用いた。DyBCO層のひずみは初期段階ではテープ全体の弾性域における平均ひずみと一致すること、さらに負荷ひずみを増加させると、構成層であるハステロイ合金がリュウダース変形し、DyBCO相はその後はほぼ一定値を示すこと、この原因はDyBCO層の多重クラッキングによるものであることを明らかにした。またBi2223フィラメントテープでは、測定で得た残留ひずみを基に臨界電流および超伝導から常伝導への遷移の鋭さを示すn値と曲げ負荷ひずみとの関係を明らかにした。(B)では、損傷進展およびその超伝導特性に及ぼす影響について、放射光実験結果とつき合わせながら、クラックの成長とクラック部での電流迂回を組み合わせたモデルを作成した。これにより、負荷ひずみ増加に伴う臨界電流、n値の変化をかなり精度よく記述できた。またこのモデルを発展させ、クラックが局所に形成された場合の臨界電流やn値の試料長さ依存性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標としたコーテッド系・フィラメント系の両方のひずみ状態を測定する装置への改善と実験データの充実、および力学応答とその超伝導特性に及ぼす影響のモデリングの精緻化はほぼ予定通りに進んだ。これらの成果は、論文や国内外の会議で発表し、重要にもかかわらずこれまでデータ取得・モデル化がそれほど進んでいない超伝導テープ使用時の信頼性・安全性評価や設計に貢献するものとして、高い評価を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで本研究で構築してきた装置・システムをさらに改善して、新たなX線を利用した構成要素の応力下における応力状態情報を、Spring8での実験と当研究室での解析により、さらに蓄積すると共に、負荷応力下での応力状態・損傷挙動とV(発生電圧)-I(電流)カーブ、臨界電流、n値などの超伝導特性との相関モデルを進展させる。これまでほぼ順調に進んできた経過から大きな障害・問題は無いと考えている。特に後者では、本年度の研究で局所的にクラックが形成された場合の超伝導特性のテープ長さ依存性の雛形を作ることができたので、精緻化するとともに、テープ材の長さ全体に不均一にクラックが形成される場合についてもモデル化を行い、力学的見地からの長尺テープ材信頼性担保のための条件についても考察する。
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