研究概要 |
本研究では,固体酸化物形燃料電池(SOFC)に代表される高温電気化学デバイスにおける反応元素の化学ポテンシャル分布・変化を実験的に明らかにすることを目的とする.本年度は,X線吸収分光やラマン分光などの分光測定用の特殊試料ホルダの開発,モデルセルの作製,測定手法の確立を中心に研究を行った.その結果,高温電気化学デバイスの電解質および電極の化学・物理状態を,(1)高温/ガス雰囲気制御下,(2)電気化学反応が進行している状態,(3)優れた位置あるいは時間分解能、で明らかにすることができる手法を確立した.また,これらの装置・手法を用いることにより,酸化物イオン導電体YSZ上に作製したPtあるいは混合導電性酸化物(Nd_2NiO_4)緻密薄膜電極をモデル系に,電解質あるいは電極における酸素ポテンシャル分布・変化を実験的に評価することに成功した.前者ではμmオーダーの位置分解能での測定を行い,電解質内における酸素ポテンシャルが,通電に伴い電極/電解質/ガス界面(三相界面)近傍において大きく変化すること,またその変化は三相界面近傍およそ100μm程度の領域において生じること,を明らかにした.後者ではミリ秒オーダーの時間分解能での測定を行い,混合導電性酸化物電極(100~400nm)における酸素ポテンシャルが,通電に伴い電極全体に渡り変化すること,その変化に要する時間は500℃,100%O_2の条件下では数10秒であり,またそれは温度・酸素分圧・電極膜厚によって異なること,を明らかにした.このように高温電気化学デバイスにおける化学ポテンシャル分布・時間変化を実験的に成功した例はこれまでに皆無であり,その学術的・工学的意義は高い.なお,今年度はいずれも測定・解析を容易にするモデル系を用いたが,確立された装置・手法は,実システムをより反映した系への適用も可能である.
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