多彩な磁気的性質が注目される逆ペロフスカイトM_3AX(M=Cr、Mn、Fe; X=Nなどの侵入元素)の機能を生み出す磁気構造相関の学理を明らかにし、その人為的制御から負熱膨張材料、磁歪材料、磁気冷凍材料などの機能材料創製を目指す。今年度は正方晶相に歪んだマンガン逆ペロフスカイトMn_3AXを中心に探索を行い、Mn_3SbNおよびその構成元素一部置換体において、室温で最大1000ppmに達する巨大磁歪を発見した。この磁歪は先に代表者らが発見したMn_3CuNにおける巨大磁歪と同様、熱弾性型マルテンサイト変態に由来する強磁性形状記憶効果によるものと考えられる。また、Mn_3CuNについては、磁性に関する窒素欠損効果を詳細に調べ、窒素欠損による磁化容易軸の回転や磁歪動作磁場の著しい低減などの現象を明らかにした。これらの現象は、Ni基ホイスラー合金など他の強磁性形状記憶合金には見られないもので、強磁性形状記憶合金としての逆ペロフスカイトを特徴づけるものである。Ni基のホイスラー合金に代表される強磁性形状記憶合金は、従来材料に比べて桁違いに大きな磁歪などの特徴から、次世代のアクチュエータ材料として注目されているが、材料系がごく限られており、特に室温動作を示すものはNi基ホイスラー合金のみであった。本研究でなされた一連の成果は、逆ペロフスカイトがホイスラー合金とは別の主要な強磁性形状記憶合金群になり得ることを示すものとして注目される。とりわけ、Ni基ホイスラー合金を除いては唯一の室温動作を実現している点で特筆される。物質バリエーションが極めて豊かであることが逆ペロフスカイトの大きな特徴であり、今後の探索により、動作温度の向上など、さらに高機能の磁歪材料開発が期待される。
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