研究課題/領域番号 |
22360295
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
北田 正弘 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (70293032)
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キーワード | 青銅 / 鉄ナノ粒子 / 鉄の還元 / 磁性 / 西洋刀剣 / マルテンサイト / 古代煉瓦 / 柿右衛門様式 |
研究概要 |
平成23年度に実施した研究の概略を下記に示す。 (1)古代の青銅文化財中の鉄のナノ構造の研究では、紀元前16世紀の古代ペルシャ、ローマ、ギリシャ時代、日本の青銅のごく一部に数%の鉄が含まれていることを示し、この存在状態を透過電子顕微鏡で調べ、寸法が10-50nmの純鉄微粒子として存在することを見出した。これは原料鉱石のCuFeS_2からの混入だが、鉄器時代以前に鉄の還元が行われたことを示す歴史的な発見である。また、磁性を磁化曲線から求め、保磁力は低いが数kOeまで飽和しないことから、微粒子が磁気的にカプリングしていることを示した。同様の鉄微粒子を多量に分散できれば、極めて強力な永久磁石が製作可能であることを示唆するものである。 (2)スイス武器博物館(NAZ)から提供された西洋刀剣のナノ構造を調べた。16-18世紀に作られた小型(細身)の剣は殆どが縞状組織で、2種の縞領域はマルテンサイトとなっているが、一方にはパーライトが存在する。これは組成によってマルテンサイトスタート温度が異なり、硬軟2種の組織として靭性と硬さおよびバネ性を付与している。日本刀とは異なる思想で作られた優秀な鋼製品であることを証明した。 (3)ドイツおよびスイスにおけるローマ時代遺跡・聖堂建築等を出張調査し、譲渡されたローマ時代煉瓦、聖堂石材、陶器の微細構造を分析した。マスコバイト系、カオリナイト系、石英等の物質からなり、焼成されたものは土中でOH基が導入されて変質し、層状化合物がOHを取り込んでいることを明らかにした。 (3)陶磁器では、元禄時代に製作された柿右衛門様式の赤、桃色、金色の釉薬のナノ構造を分析した。赤は50-100nmのヘマタイト微粒子からなり、桃色は数nmのヘマタイトと金ナノ粒子、金は数μmの粒子と数10nm以下の微粒子からなる。Au微粒子は非晶質ガラス中で拡散して大きな粒子に成長する。ガラス中でAu原子が拡散し、凝集・粗大化する現象は初めての結果である。また、金微粒子は着色にも寄与している。 (4)このほか、前年度から継続している日本刀の研究、鉱物染色物質、水没埋蔵木簡の乾燥挙動、絵画では浮世絵に使われている青顔料、高松塚古墳の漆喰などについてナノ構造を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
文化財および美術工芸品、埋蔵文化財の研究は試料の入手が極めて困難だが、個人的に収集したものが多数あること、海外の博物館・研究機関からの新たな試料の提供も受けて、当初の目的以上に新たな試みを進めることができた。また、ナノ構造を明らかにするための各種電子顕微鏡については、国内の大学および研究所、電子顕微鏡製作メーカーである日立製作所、日本電子の支援を受け、X線CTおよび回折ではリガク等の支援を受け、計画以上に研究が進展した。特に電子顕微鏡製作メーカーでは、最新の開発機器での分析ができた。この分野でナノ構造までを明らかにする研究は世界的に皆無の状況であり、世界をリードしている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は平成22-24年度までの3年計画であるが、目的とする研究は順調に進んでいる。したがって、研究計画等の変更は必要ない。本研究では当初の目的を達成することが当然の基本事項であるが、目的の達成とともに、新たな分野を切り開くことも重要である。その意味で、本研究の最終年度では、目的の達成とともに新たな分野を開拓することを推進の中心的な方策としている。本年度の研究の中でいくつかの新しい試みを進めており、さらに、これを発展させる。
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