研究概要 |
本研究は、量子切断効果を利用して既存もしくは新規の応力発光体の発光波長を紫外・可視光から近赤外光へダウンコンバージョンすることにより、近赤外発光を有する新しい応力発光体を実現させること、およびその発光機構を解明することを目的とする。 本年度は、材料開発と近赤外応力発光・蛍光特性の評価装置の開発に力点をおいて研究を進めた。 材料開発に関しては、これまで開発してきた応力発光体の中で実用材料として期待されているSrAl_2O_4:Eu^<2+>を選択し、これにダウンコンバージョンを担う様々な希土類イオンを微量添加することにより近赤外応力発光の有無を評価した。近赤外蛍光の評価には、今回の科研費で新たに導入したHORIBA製FLUOROLOG-NIRで評価した。この装置は近赤外のみならず、紫外~可視領域の蛍光分光も可能である。また応力発光評価には、既存の応力発光評価装置の光検出部を近赤外用の光電子倍増管(PMT)に交換し、PMTの前に可視光のカットフィルターを挿入することにより、近赤外成分のみの応力発光強度測定を可能とした。共添加した希土類イオンの中でEr^<3+>、Nd^<3+>を微量添加した試料において応力発光信号が計測出来た。それぞれのイオンの蛍光ピーク波長は1550nm、900nm近傍にあることから観測された近赤外応力発光は蛍光と同様なピークを有するものと考えられる。またSrAl_2O_4にEr^<3+>のみ、Nd^<3+>のみを添加した試料は、SrAl_2O_4:Eu^<2+>の蛍光ピーク(520nm)近傍に大きな吸収ピークを有しており、実際SrAl_2O_4:Eu^<2+>,Er^<3+>およびSrAl_2O_4:Eu^<2+>,Nd^<3+>の可視光領域の蛍光スペクトルを測定すると、ちょうどそれぞれのイオンの吸光ピークにあたる520nm近傍にディップを有する蛍光ピークを観測した。これらの測定結果は、Eu^<2+>イオンに吸収されたエネルギーがそれぞれのイオン(Er^<3+>、Nd^3)にエネルギー共鳴伝搬されたために起こったものと推測される。
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