研究概要 |
本研究の目的は、量子切断効果を利用して既存もしくは新規の応力発光体の発光波長を紫外・可視光から近赤外光へ波長変換(ダウンコンバージョン)することにより、近赤外発光を有する新しい応力発光体を実現させること、およびその発光機構を解明することにある。 本年度はプロジェクトの最終年度ということもあり、これまで開発してきた近赤外応力発光体の各電子遷移プロセスの検証とモデルの検討を行った。 まずドナーイオンからアクセプターイオンへの電子遷移に起因する発光の量子効率を定式化し、これまで開発した近赤外応力発光体の量子効率を評価した。その結果、SrAl2O4:Eu,Erにおいて、Euの添加量が0.1%と0.5%のときでそれぞれ25%、10%以下という結果となり、期待していた100%以上の量子効率は達成できていないことが判明した。アクセプターイオンへの電子遷移確率を増やすためErの添加量を増やしたが、改善することはなく逆に低下する傾向が見られた。これはErイオンを増やすことにより、逆にエネルギー回遊が生じて無輻射遷移の確率が増加したことに起因しているものと思われる。またドナーイオンからアクセプターイオンへのエネルギー遷移メカニズムを検証するためドナーイオンの蛍光寿命測定測定を行ったところ、Inokuchi-Hirayama理論で予想されていた非指数関数型の減衰曲線が観測された。この結果は、エネルギー遷移が共鳴伝搬機構であることを示唆している。以上の研究成果をまとめると、近赤外発光効率を向上させるための方法として、①ドナーイオンの輻射遷移、アクセプターイオンの吸収・輻射遷移、ドナー・アクセプターイオン間のエネルギー共鳴遷移が許容であること、②ドナーイオンの発光帯とアクセプターイオンの吸収帯に大きな重なりが必要であること、以上のような知見は、今後の応力発光の多色化につながる技術として重要である。
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