研究概要 |
平成22~23年度の本研究により、鋼の溶解(腐食)ではなく、鋼と共にMnS介在物が溶解する場合にのみ、鋼に顕著な水素侵入が起こることが解明された。そこで、MnS介在物の耐溶解性を向上させるシーズ技術を見出すため、硫化物とは大きく特性が異なると予想される炭窒化物系介在物に関して研究を行った。炭窒化物としては、Ti(C,N)に着目することにした。Ti(C,N)は、MnSと共に実用鋼によく見られる介在物である。しかも、少量のB(ホウ素)を添加するタイプの高強度鋼では、MnS系介在物と共にTi(C,N)が生じるように成分設計がなされており、その性状が鋼への水素侵入に影響していると考えられてきた。しかし、Ti(C,N)の電気化学特性は不明である。そこで、0.3 M ホウ酸と0.075 M 四ホウ酸ナトリウムを混合することで、pHを7.0に調整した溶液(非脱気)を使用し、マイクロ電気化学プローブを用いて、Ti(C,N)の電気化学特性を調査した。大きさが100×100μm程の微小な電極面内に、長さ15~25μm、幅5μm程のTi(C,N)が1個存在するように試験片を作製し、動電位アノードおよびカソード分極曲線を計測した。同様に、Ti(C,N)を全く含まない鋼のみの領域での分極曲線を計測した。その結果、アノード分極下においては、Ti(C,N)は全く溶解しないことが分かった。変色などの溶解の兆候も見られなかった。同様に、カソード分極においても、Ti(C,N)と鋼との境界部に軽微な変色が確認されたものの、Ti(C,N)の溶解は確認されなかった。以上より、Ti(C,N)はMnSに比較して、耐溶解性に優れることが解明された。これより、水素侵入の起点となるMnS/鋼境界に炭窒化物を形成し、MnS/ Ti(C,N)/鋼のような三相構造とすることで、水素侵入を防止できる可能性が見出された。
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