研究概要 |
本年度は,マランゴニ対流が薄膜形状に及ぼす影響を実験・理論の両面から検討した.主な成果は以下の通りである. 1)2成分溶媒系の液滴内部には,溶質と溶媒の濃度勾配によって2種類のマランゴニ対流が生じる.2成分溶媒に関する既報の論文を再調査した結果,ほとんどの研究では溶媒濃度差対流の影響のみを取り上げており,溶質濃度差対流の存在を無視していることがわかった.これを考慮すれば,内部循環流の方向が異なってくる可能性があり,既報の実験結果の多くは接触線固定時の溶液粘度からも説明できることを明らかにした. 2)溶媒の組合せ,混合比,溶質濃度などを実験パラメータとして,円形パターン基板上における薄膜形成実験を行った.その結果,操作因子による薄膜形状の相違は,単一溶媒の場合と同様に,接触線固定時の接触角,粘度および蒸発速度の3つの因子との相関から説明できる.しかし,いくつかの2成分溶媒に関しては,これら3因子だけでは説明できず,マランゴニ対流が寄与していることが示唆された. 3)昨年度までの単一溶媒滴に対するプログラムコードを2成分溶媒系に拡張した.可視化実験結果と定量的に一致させるまでにはプログラムコードの改良が必要であるが,溶質と溶媒の各濃度差により対流が複雑に絡み合って,循環流方向が途中で変化すること,ある2成分溶媒では流れに振動が生じること,などの実験結果を定性的に説明できた. 4)上記のプログラムコードとは別に低接触角を想定した接触線固定時のプログラムコードの開発を行った.解析では液滴界面が微小に振動する現象が観察され,当初は計算誤差と思われたが,詳細に検討した結果,これはマランゴニの不安定性に起因した振動であり,実験的にも観察される現象であることがわかった.また,このコードを用いて,薄膜形状の予測を行った結果,定性的に実験結果と一致した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題の最終目的である薄膜制御に関して,実験的検討により,従来研究の見落としが明らかとなり,数個の直接的因子まで絞ることができた.また,数値解析プログラムも完成に近づいている.申請期間内には,最終目的を達成できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
薄膜形状に影響する因子について,従来マランゴニ対流の寄与と考えられていた実験結果の一部が,他因子の影響の方が大きい可能性を見出した.したがって,マランゴニ対流を中心にそえた申請計画を微修正し,最終年度は,他因子の影響についても検討する予定である.
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