研究概要 |
本研究では加圧二酸化炭素,有機基質液相,水相,固体触媒から構成される新しいタイプの多相系反応場を対象としている。この多相系反応場の反応速度,生成物分布,触媒の寿命は複数の因子で左右される。そのひとつの重要な因子として液相に溶解した二酸化炭素分子と反応基質の特定官能基の間の相互作用を指摘し,高圧その場赤外分光法で詳しく調べて来た。しかし,この赤外分光測定は水と触媒が存在しない系で行ったものであり,より反応条件に近い系での測定が求められる。 そこで本年度は,水の効果を分子レベルで明らかにすることを目的とした。水の影響は多岐にわたると予想されるが,ここでは貴金属触媒による水素と二酸化炭素からの一酸化炭素の生成と吸着に注目する。自作の耐圧セルを利用したその場高圧赤外分光法を用いて,市販のアルミナ担持貴金属触媒(Pt, Pd, Rh, Ru)をペレット状に成型したものを試料とし,水素,二酸化炭素,水が共存する条件で,触媒表面への一酸化炭素の吸着を調べた。水素圧力は固定し,二酸化炭素圧力を0~20 MPaの範囲で変化させ,一酸化炭素の吸着量,吸着状態(linear型,bridge型等)が,触媒と圧力でどのように異なるのか調べた。次に同様な実験を有機基質が存在する場合に広げ,有機基質が存在によって,水の効果が変わるのかどうかを調べた。例えば,フェノール水素化の場合,一酸化炭素あるいは水の触媒金属(パラジウム)への吸着が強く,基質は吸着できないため一酸化炭素の吸着によって触媒は速やかに失活し,水が存在しても抑制出来ないことを示した。しかし,中間体であるシクロヘキサノンの場合,触媒金属表面の一部に吸着することが出来るため,フェノールの水素化は抑制されてもシクロヘキサノンの水素化は進行することを示した。
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