当研究室で、有機溶媒存在下でドライイーストを用いた変換反応の連続培養実験から世界で初めて単離したイソオクタンに対して耐性を有する酵母Saccharomyces cerevisiae KK-211株の遺伝子発現の調査から得られたデータをもとに、有機溶媒耐性に関連すると思われる遺伝子群の機能を調べることを目的とした。 KK-211株の有機溶媒耐性機構を明らかにするため、DNAマイクロアレイ解析によりKK-211株と野生株とで網羅的に転写レベルを比較し、有機溶媒に関わっていると考えられる遺伝子を絞り込んだ。その結果、KK-211株では多くの遺伝子の転写レベルの上昇が確認された。これらの遺伝子群の中には、ABCトランスポーターなど細胞表層タンパク質をコードするものが多く含まれていた。さらに、これらの遺伝子の発現制御機構を調べると、共通してプロモーター領域中にPDRE(Pleiotropic Drug Response Element)が存在していたことから、PDREをもつ遺伝子の発現制御を行っている転写因子Pdr1pに着目した。Pdr1pは薬剤耐性に関連する多くの遺伝子の発現を制御しており、このタンパク質の特定のアミノ酸に変異を導入すると薬剤耐性が向上することが報告されている。そこで、KK-211株の遺伝子転写プロファイルを分析したところ、興味深いことにpdr1変異株の遺伝子転写プロファイルと高い類似性を示した。したがって、有機溶媒耐性をもたらす要因としてPDR1遺伝子の介在が考えられたため、KK-211株のPDR1遺伝子配列を調べてみると、野性株と比べて4カ所のアミノ酸変異の存在を発見したので、これら変異と有機溶媒耐性ならびに薬剤耐性との相関の詳細な解析を展開しつつある。
|