本研究の目的は,安全かつ有効な次世代ワクチンであるウイルス様粒子の高生産プロセスを構築するための基盤技術を確立することである.ウイルスの表面タンパク質の遺伝子を哺乳動物細胞で発現させると,ウイルス感染細胞と同様の生合成過程によりウイルス様の空の粒子が形成,分泌される.ウイルス様粒子は,ゲノムをもたず感染性がないため安全性が高く,また本来のウイルス抗原と同等の抗原性や免疫原性を示すことから,ワクチンや診断薬としての利用が期待される.しかしながら,ウイルスタンパク質の哺乳動物細胞に対する毒性のため,収量が低いことが課題であった.本研究では,デングウイルスや日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスを対象として,組換え昆虫細胞を用いたウイルス様粒子の生産について検討した.まず,Bombyx mori由来のアクチンプロモーターの上流にバキュロウイルス由来のトランス作用因子IE-1とエンハンサーHR3を有するプラスミドベクターを用いて,日本脳炎ウイルスの表面タンパク質prMおよびEの遺伝子をTrichoplusia ni由来のBTI-TN-5B1-4 (High Five) に導入して作製した組換え昆虫細胞が産生したウイルス様粒子をマウスに免疫することにより,Eタンパク質に対する中和抗体が誘導されることを確認した.また,通気撹拌槽型のバイオリアクターを用いて組換え昆虫細胞を懸濁培養 (培養液量:1 L) したところ,振とう培養の場合と同様に,組換えCHO細胞の100倍以上のEタンパク質が分泌生産されることがわかった.さらに,組換え昆虫細胞の培養上清にポリエチレングリコールを加えて沈殿を生成させ,それを溶解したものをSephacryl S-100ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分離することにより,ウイルス様粒子を効率よく精製できる可能性が示唆された.
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