実用的肝組織工学技術開発に向けて、以下の成果を得た。 増殖因子固定化ヒドロゲルを用いた成熟肝細胞/胎仔肝臓細胞移植による肝組織構築技術を確立した。この際、組織内部への旺盛な血管新生誘導も実現できた。さらに、増殖因子固定化ヒドロゲル粒子と肝細胞から成るハイブリッドオルガノイドを構築し、ラットへの皮下移植により、さらなる肝細胞生存、各種肝機能発現および血管新生の増大を実現した。また、最適化された脱細胞化肝臓を可溶化することにより、肝臓特異的細胞外マトリックス基材を得た。本基材は肝細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子や塩基性繊維芽細胞増殖因子などの機能的肝組織構築に有効な各種増殖因子を自発的に固定化可能であった。さらに、本基材はフィルムやゲルへの成形性を有し、肝細胞培養やラットへの移植により、各種肝機能の高発現と体内における肝組織構築への有効性が示された。 一方、脱細胞化肝臓を鋳型とした再細胞化肝臓の構築とアルブミン合成活性を指標とした最適化を行った。また、再細胞化肝臓の血液循環系を構築した。さらに、これらを組み合わせることにより、再細胞化肝臓の血液循環系を構築し、無アルブミンラットへの適用によりその性能評価を行った。その結果、当該システムにおける肝機能発現は確認されたものの、重篤な肝不全ラットの救命・治癒を実現するにはまだ不十分であった。これは、用いた肝細胞数とシステム全体の温度管理が不十分であったことが原因であると考えられた。しかしながら、本研究によって脱細胞化肝臓を鋳型とした再構築肝臓の初期構造体の構築に成功し、さらに、血液循環の実現と血液体外循環による人工肝臓的適用による肝機能発現の実現に成功したことは、実用的肝組織工学技術開発において大きな成果であったと言える。
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