研究課題/領域番号 |
22360350
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
根来 誠司 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90156159)
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研究分担者 |
武尾 正弘 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40236443)
加藤 太一郎 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60423901)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ナイロン / 6-アミノカプロン酸 / 加水分解酵素 / X線結晶構造解析 / 耐熱性酵素 / リサイクル技術 / ガスクラスター2次イオン質量分析 |
研究概要 |
1.ナイロン工場排水などを分離源として、6アミノカプロン酸オリゴマーを加水分解する微生物の取得を行い、酵素精製と特徴付け、遺伝子クローニングと塩基配列解析、高発現化を行った。また、好アルカリ性細菌など、特殊な環境で生育可能な微生物を含めて、約10種類の分解菌を取得した。 2.これまで、10量体程度のオリゴマーは、3種の酵素NylA, NylB, NylCによりモノマーまで分解できることが明らかとなっていたが、今回、親型NylC(熱変性のTm値52℃)のサブユニットA/B界面に位置する4変異導入により、Tm値が88℃まで上昇した変異酵素を構築できた。さらに、同酵素は、6ナイロン、66ナイロン、修飾ナイロン(6ナイロンのアミド窒素の約30%がメトキシメチル基で修飾)など、種々のポリアミドに作用することを見いだした。 3.GPC分析では、固体表面の分子量変化の検出が困難であったが、新規表面分析(ガスクラスター2次イオン質量分析)の導入により、ナイロン分解の定量的分析が可能な実験系が整った。 4.Ahx直鎖2量体から、モノマーへの変換は、NylBにより行われる。NylBはモノマーから、直鎖2量体を高効率で合成できるが、数アミノ酸置換で、合成・分解の反応方向性、アミド合成収率が大きく変化する。高効率のアミド合成が可能な触媒中心の形成要件を、立体構造・理論化学・速度面から明らかにすることができた。 5.N-メチル化アミド結合を特異的に加水分解する酵素は、分子間の水素結合の緩和、特異的な切断・再結合を制御する方法として有用であるが、同機能を有する新規酵素も見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
起源の異なるNylC間の立体構造比較に基づき、機能・安定性の差をもたらすアミノ酸置換の特定、個別の効果を検証した。その結果、親型NylCへの4アミノ酸置換導入で、親酵素の耐熱性(熱変性温度Tm:52~67℃)を大きく上回り、Tm値が88℃まで上昇した変異酵素の取得に成功した。さらに、新規質量分析法(ガスクラスター二次イオン質量分析)により、固相表面上で進行する酵素作用を鋭敏に検出することが可能となり、同酵素は6ナイロン、66ナイロン、修飾ナイロンへ作用することを見いだした。現在、NylCは、nylon hydrolase (ナイロン加水分解酵素)の名称で、J.Biol.Chem.(アメリカ生化学会)に認定されている。
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今後の研究の推進方策 |
ナイロンベースの次世代生分解性ポリマーは、用途として、強度・耐熱性が高くリサイクル化が望まれている素材(自動車エアバッグ等)、環境で生分解される素材(食品・農業用)、生体適合性が要求される素材(酵素マイクロカプセルなどの医療用)を想定し、必要な物性を連携企業との協働で検討する。 タンパク質分解酵素の基質特異性と同様に、特定モノマーを認識し、これに隣接するアミド結合を特異的に切断する酵素の開発も将来の課題である。特定モノマーを基本ユニットのポリアミド中に組み込ませる精密有機合成と、上記酵素の利用により、ポリアミド中で特異的切断と逆反応による再結合が可能となり、ポリアミドベースの機能素子の開発が容易になる。再資源化においては、得られたモノマー(6-アミノカプロン酸)を、6ナイロンの原料としてのεカプロラクタムへ再環状化する反応、または、アジピン酸などの有機酸、プロパノールなどのアルコールへ発酵法で変換するプロセスも別途、検討している。 GC-SIMSによる分解反応測定系は、ポリマー固相表面での分子量変化、平均ニック数から、ポリマーの完全分解に必要な反応条件を実験的に予測できる。特に、環境負荷低減化の観点から、合成段階で、再資源化と生分解性を考慮したポリマー生産が必要になると考える。今回の研究開発のアプローチが、ポリエステル類など他のポリマー開発へ適用できると、合成ポリマーの処理形態が、廃棄・焼却から再資源化を主体としたプロセスへ変革でき、低炭素化社会の実現に貢献できる。
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