本研究は,JAXAで開発中の予冷ターボジェットに関わる非定常現象を実験的に調査,モデル化し,それを組込んだシステム全系の非定常シミュレータを構築し,エンジン燃焼実験に適用することを目的としている.以下に概要を示す. (1) エアインテークの非定常特性に関する実験および数値解析:超音速風洞実験および数値解析により,抽気量および後部ダクトの大きさ(エンジンダクトのボリューム)をパラメタとしたバズ周波数と振幅の調査を行った.両者は定量的にもほぼ一致し,ダクト体積の違いにより,バズの発生タイミングが変化する様子を捉えることができた.また,低マッハ数時には,超臨界状態(始動状態)と特性の似ている亜臨界状態(不始動状態)が観測され,疑似超臨界状態と名付けた. (2) 極低温流体の流動特性に関する研究:課題であった静電容量型ボイド率計の温度ドリフトを約1/10に低減する方法を確立した.また,ボイド率計測の理論式を検証するために,電場解析を実施し,高精度化のアイデアを提案した.さらに,観測ロケットに搭載するための小型ボイド率計を開発した(2013年冬に打上げ予定).実験結果から,液体窒素のクオリティと熱伝達に関する関係を導き,液体水素の物性データを取得する目処を立てた. (3) エンジン非定常シミュレータの構築:これまでに構築した非定常シミュレータに今年度得られた物理モデルを組込み,精度の向上を図った.さらに,非設計点として,エンジンがウインドミル状態で作動するときのモデルを組み込み,JAXA側で実施した起動試験と比較し,シミュレータの精度を確認した. 研究はほぼ予定通りに完了し,波及的な技術も得られたが,インテークバズと液体水素の流動モデルをシミュレータに組込むという点において未だ不十分なところがあり,今後の課題となった.
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