研究概要 |
タングステン(W)は、他の材料の追随を許さない数多くの優れた特性をもつため、国降熱核融合実験炉(ITER)の最も厳しい熱負荷に晒されるダイバータ材料として使用される計画である。しかしながら、Wは熱負荷に晒されると融点(3410℃)よりはるかに低い温度で再結晶して粒界脆化し(再結晶脆化)、また、高エネルギー中性子等の照射を受けると脆化がさらに促進される(照射脆化)。そこで、照射損傷に強いナノ組織(高密度の結晶粒界と遷移金属炭化物分散粒子を含む)をもつW材料をまず作製し、そのナノ組織の中で特に弱く亀裂の入りやすい再結晶ランダム粒界を強化するために、高温での超塑性変形を活用する新しい組織制御法を開発した。超塑性変形は、「粒界すべり」に基づく変形様式であるため、粒界すべりに必要な粒界の移動や結晶粒の回転を通して、粒界強化に必要な遷移金属炭化物の粒界析出・偏析が促進され、かつ異方性の少ない再結晶組織が維持できる。この「弱い再結晶ランダム粒界の強化を目的とした粒界すべりに基づく組織制御法」をGSMM(Grain boundary Sliding-based Microstructural Modification)法と呼び、この方法により作製される、再結晶ランダム粒界が極めて強化され室温で延性を示すWをTFGR(Toughened,Fine Grained,Recrystallized)Wという。今年度はTFGR W-1.1%TiCとTFGR W-3.3%TaCを作製した。 一方、これらのTFGR Wを必要な形状・サイズへのスケールアップ技術を確立することが必要である。そこで2通りの方法を試みた。一つは、「非酸化性雰囲気・低回転速度で圧延可能な熱間圧延装置」の試作であり、その装置を設置した。もう一つは、大荷重容量の超高温ホットプレス装置を用いる方法であり、超高温材料研究センター(株)(JUTEM)に必要な機器等を持ち込み、従来よりも一回り大きなW-1.1%TiCのHIP焼結体について、JUTEM関係者の協力を得て実施した。用意した治具の破損により目標のスケールアップは得られなかったが、この方法の問題点を明らかにしたので、次年度に再度挑戦する予定である。
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