本研究の目的は海水と淡水間の濃度差エネルギーを利用した環境にやさしい浸透圧発電と、そのシステムを実用化するためのイオンバリヤー性荷電膜の作製である。 本年度では浸透圧発電の実用化に不可欠な高イオンバリヤー性と高水透過性を有する膜作製条件の検討を行う。イオンバリヤー性荷電膜を作製するために、まず親水性高分子であるポリビニルアルコール(PVA)と高分子カチオンであるPoly(diallyldimethylammoniumchloride)を所定の割合でブレンドした溶液を加熱溶解後、アクリル板上にキャストして原膜を作製した。この原膜を所定条件で30分間熱処理した後、グルタルアルデヒドによる化学的架橋を行い、膨潤平衡に達するまで脱イオン水に浸漬させることでPVA系イオンバリヤー性荷電(PVA-IB)膜を得た。作製したPVA-IB膜、及び比較のために市販ナノ濾過(NF)膜、正浸透(FO)膜における正浸透性能を評価するためにNaCl溶液、スクロース溶液を高浸透圧溶液とした浸透圧駆動系における水透過係数及び塩透過係数を測定した。 PVA-IB膜の水流束はNaCl溶液が高浸透圧溶液の場合、市販NF膜の約2倍となり、また市販FO膜の約1/4倍の値を示した。またスクロース溶液では市販FO膜の約4倍高い値を示した。PVA-IB膜が特に高粘度のスクロース溶液において市販FO膜よりも非常に高い水透過性を示した原因としてPVA-IB膜は内部濃度分極の影響が少ないのに対して市販FO膜は内部濃度分極により実効浸透圧差が減少して水透過性が低下したことが考えられる。 浸透圧発電においては圧力を加えた状態において膜両側での浸透圧差を駆動力として水の移動を生じさせる。この場合も内部濃度分極が小さいことが求められるためPVA-IB膜は浸透圧発電用の膜としても高い水透過性が得られることが期待出来る。
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