生物は酸素を利用して代謝活動を行い、エネルギーの生産を行っているが、その過程で反応性の高い活性酸素分子種(ROS)を生成する。ROSは様々な生体構成物質を酸化するが、核酸を構成するグアニンの酸化は重大である。それによって遺伝情報が変化し、その結果発がんや老化の促進が起こると考えられる。本研究では酸化されたグアニンを核酸合成前駆体(ヌクレオチド)プールから分解排除し、さらに核酸分子からとり除いて修復する機構を明らかにしてきた。 本年度は、酸化グアニンを含むRNAを分解排除する機構について研究し、その過程で重要な役割を果たすタンパク質の役割を明らかにすることができた。ヒトの細胞(HeLa S3株)をH2O2で処理すると酸化されたメッセンジャーRNAが分解されるが、その過程にAUF1(HNRNPD)が関与することを明らかにした。AUF1はRNAに結合する能力をもっているが、酸化されたRNAには特に強く結合する。これはAUF1がRNA中の酸化グアニン(8-オキソグアニン)を認識して結合することによることを、8-オキソグアニンを含む合成オリゴヌクレオチドを用いて証明した。さらにこの結合にはAUF1以外のタンパク質が関与することを示した。ヒトの2種の細胞株からAUF1を欠損する細胞を作出し、その抽出液の酸化RNAに対する結合活性をを調べたところ、野生株の抽出液よりもはるかに低いことを示すことができた。4種の異なるメッセンジャーRNAの分解を調べたところ、AUF1欠損細胞では野生株よりいずれも低かった。AUF1がRNA中に存在する酸化グアニンを認識して、酸化されたRNAを特異的に分解排除する上で大きな役割を果たしていると考えられる。
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