ヤチネズミ個体群の変動と遺伝的距離の関係について,石狩湾沿いにある連続した森林に設置した8調査プロットの結果を分析した.調査プロット間の距離は50 - 2000 mで,さまざま距離間隔で個体群間の遺伝的距離と地理的な距離の関係,個体の分散行動を分析することができた.2009年の予備調査で採取したエゾヤチネズミのサンプル(162個体)のmtDNAを解析した結果,雌雄で集団構造に大きな違いがあることが分かった.メスでは地理的距離が近い集団ほど遺伝的な類似性が高いという Isolation by Distance (IBD) が検出されたが,オスでは個体群間の地理的距離と遺伝的な距離に明瞭な関係は認められず,遺伝子流動の効果が遺伝的浮動の効果を上まわるったとき見られる特徴を示した.また,メスでは,500 m 以上離れると遺伝的距離が大きく離れた個体群が見られ,比較的近距離から個体群間の相互の独立性が認められた.一方,オスでは 2 km 近くまで個体群間相互の遺伝的な交流が保たれていた.これは,オスは良く分散するがメスは出生地に止まるという行動の雌雄差によって説明できた.この研究成果は米国の学術雑誌 Journal of Heredity に発表した. 遺伝的な空間構造を年次間で比較するとオスでは2009-2011の3年間で変化は見られず,いずれの年でも遺伝子流動の効果が遺伝的浮動の効果を上まわった.一方,メスでは2009年と2010年は遺伝子流動と遺伝的浮動の効果が平衡状態を示したが,2011年は遺伝的浮動の効果が遺伝子流動の効果を上まわった.2011年はヤチネズミの数が少なかったので,個体群密度の効果によって遺伝子流動ー遺伝的浮動間のバランスが変化したと考えられた.この研究の成果一部は国際生態学会で発表し,現在,論文にまとめている.
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