本研究は、近年の環境変化を化学量効果として捉え、その影響の大きさが群集間で異なるメカニズムを、「生産者の種多様性や消費者の栄養摂取に関する遺伝的多様性は、環境変化による生態系への化学量効果を緩和する」という仮説を検証することで、解明することを目的としている。 研究にあたっては、生産者として植物プランクトンを、消費者として動物プランクトンであるミジンコ種を用い、培養実験及び消費者個体群動態が追跡出来るマイクロコズム実験により行う。初年度にあたる本年度は、群集動態に及ぼす化学量効果の解析に必要な基礎データを取得するため、同一生産者に対する消費者の成長応答について種間差や種内差を明らかにする実験を行った。具体的には、種間差を明らかにするための実験として7種のDaphnia種を、また種内変異を調べるためにマイクロサテライト7遺伝子座で識別したD.dentiferaの15クローン用い、餌の量や質に対する成長応答を調べた。その結果、餌の量的変化に対する成長応答は餌の質に大きく依存するが、その依存性はDafnia種間や同じDaphnia種でもクローンによって異なることが明らかとなった。これら結果を用いて個体群維持に必要な閾値餌密度を調べたところ、閾値餌密度は餌の質によって変化するが、その変化の大きさは種によって異なること、したがって餌をめぐる競争の優劣は同じ2種でも餌の質によって変化することが明らかとなった。一方、これら閾値餌密度は同じ種でもクローンによってばらつくことが分かった。この結果は、同じ種でも個体群内に存在する遺伝子型によって餌の量や質に対する応答が異なることを示している。
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