研究概要 |
本研究は、近年の環境変化を化学量効果として捉え、その影響の大きさが群集間で異なるメカニズムを、「生産者の種多様性や消費者の栄養摂取に関する遺伝的多様性は、環境変化による生態系への化学量効果を緩和する」という仮説を検証することで、解明することを目的としている。研究にあたっては、生産者として植物プランクトンを、消費者として動物プランクトンであるミジンコ種を用いて行っている。 本年度は我が国の湖沼に出現するDaphnia dentiferaを対象に、pgi遺伝子(ホモ4、ヘテロ4)及びマイクロサテライト7座で識別した8クローンを用い、リン含量の異なる餌を用い、餌量及び温度(12、16,20,24℃)の異なる9通りの環境条件で成長速度等の測定を行った。成長速度はいずれのクローンでも飼育条件により異なり、クローン間での成長速度の違いは餌条件や水温により異なっていた。各飼育条件下で成長速度をクローン間比較したところ、いずれの条件でも特定のクローン(クローン1)の成長速度が相対的に高かった。また、各クローンの成長速度には飼育条件間で常に正の相関関係がみられた。すなわち、調べたクローンの中ではクローン1が適応度の上で常に優位であり、ある環境条件で成長速度の低いクローンは他の環境でも成長速度が低くなることが分かった。ミジンコ個体群では、単為生殖するにもかかわらず多様な遺伝子型によって構成されており、これはある環境ではある遺伝子型の適応度が相対的に高いが他の環境では他の遺伝子型の適応度が高くなると言ったように、環境変化に際しての個体群維持に異なる遺伝子型が相補的に機能していると考えられてきた。しかし、本研究の結果は、成長速度に関する餌の質量や温度についての卓越ニッチー空間が特定クローンで広いことを示しており、個体群の遺伝的多様性の維持は遺伝子型間での環境適性では単純に説明出来ないことが判った。
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