研究課題/領域番号 |
22370008
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
北出 理 茨城大学, 理学部, 准教授 (80302321)
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研究分担者 |
前川 清人 富山大学, 理工学研究部, 准教授 (20345557)
大村 和香子 独立行政法人森林総合研究所, 木質改善研究領域, 主任研究員 (00343806)
荒谷 邦雄 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (10263138)
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キーワード | 社会性昆虫 / 遺伝的カスト決定機構 / カスト分化フェロモン |
研究概要 |
(1)シロアリのカスト比と遺伝構造調査と、カスト決定機構との関連 ヤマトシロアリ属野外巣の調査とマイクロサテライト遺伝子解析を行った結果、ヤマトシロアリではAQS繁殖様式が確認されたが、約半数の巣でコロニー融合が示唆されるなど、繁殖様式が多様であることが示された。新有翅虫の10%が単為生殖で生産されていた。さらに16個体群137巣の性比調査の結果、性比の偏りはワーカーではほぼなく、有翅虫は北方個体群ほどメスに偏り、巣間でも大きくばらついた。性比にミトコンドリア遺伝子の系統関係との対応はなかった。 オオシロアリの野外巣を南西諸島で調査した結果、カスト構成から多巣性であることが示された。生殖虫は無翅型幼形生殖虫で性比はメスに偏り、ソルジャーの性比は全巣でオスに偏った。 (2)ヤマトシロアリのワーカー化フェロモンに関する飼育実験と物質同定の試み 近年報告された揮発性女王物質によるアッセイを行った結果、女王物質はニンフ遺伝子型の子をワーカーに誘導する効果を示さなかった。一次生殖虫(王・女王)からヘキサンとメタノールで抽出した物質は、低率ではあるが誘導を引き起こした。抽出部位による誘導率の違いの検証のため、実験を継続中である。一次生殖虫・ワーカー・幼虫からなる実験コロニーの行動観察を行い、生殖虫の体表と消化管内に存在する物質が幼虫へ伝達される際の主要経路を推定した。また単為生殖コロニーで生殖虫がカスト分化に与える影響を解析した結果、ニンフの生産は一方の雌に偏ることが示された。 ワーカー化フェロモン物質の解析のため、EADとGC-EADによる触角を用いた検出系の確立を試み、EADの系は確立されつつある。またSPMEによる女王由来物質の検出を行った。 (3)カスト分化とホルモン量の関連の解析 ヤマトシロアリを用い、兵隊の存在によるワーカーのJH量の低下をHPLC分析で明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロアリ類における階級分化遺伝システムを調べる交配実験の一部については、震災の影響で輸入したムカシシロアリが死滅して実験継続ができなくなるという障害が生じたが、遺伝構造調査等では、計画段階での予想越える新しい知見が得られている。また生殖虫によるワーカー化が物質の作用で生じることが新しく確認されるとともに、新規実験系でフェロモン物質の解析に取り組んでおり、おおむね順調に計画が進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ムカシシロアリを利用した交配実験が震災の影響で実施できなくなったため、交配実験に基づく考察を予定より縮小し、野外コロニーの遺伝構造調査に基づく研究を拡充することとする。本年度が最終年度であるため、とくに生殖虫由来のフェロモン物質のバイオアッセイとEAD法等の新規手法を用いた解析を本格的に進めるとともに、広い分類群に渡る野外コロニーの遺伝構造の調査と、ヤマトシロアリを用いたニンフ・ワーカー系列幼虫の遺伝子発現解析を進める。さらにこれまでに得られた成果を総合して、シロアリ類におけるニンフ・ワーカー系列の決定過程の進化を考察し、得られた成果の論文化と投稿を進める。
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