研究代表者および分担者は、光合成器官である葉緑体が、植物の感染防御応答(病害応答)において重要な役割を果たしていることを見いだし、その分子機構を明らかにする研究を進めてきた。これまでに、病原体の感染シグナルがCa^<2+>シグナルとして迅速に葉緑体に伝達されること、チラコイド膜タンパク質CASが感染防御応答の発動に重要な役割を果たしていることなどを明らかにしてきた。今年度は、CAS遺伝子の破壊株を用い、葉緑体が発する防御応答シグナルの同定に取り組んだ。 (1)植物の感染防御応答のストレスホルモンであるサリチル酸の挙動を解析した所、エリシターが誘導するサリチル酸の一過的蓄積が、葉緑体タンパクであるCASに依存していることを見いだした。つまり、葉緑体はCASを介してサリチル酸の合成をコントロールし、その下流で活性化される様々な防御応答を制御している可能性が示された。 (2)サリチル酸の誘導は、その合成酵素ICS1や輸送体EDS5の発現誘導によって活性化されると考えられている。そこで、サリチル酸誘導に先立つこれらの遺伝子の発現誘導特性についてマイクロアレイ解析を行った。その結果、病原体シグナルが誘導する防御遺伝子群の発現誘導にCASが必要であることが分かった。葉緑体はCASの直接的あるいは間接的働きによって何らかのプラスチドシグナルを発信し、核コードの防御遺伝子の発現を誘導していると考えられた。
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