真核生物の繊毛は、細胞の運動やシグナルの受容に関わる重要な細胞構造であり、進化を通して高度に保存されている。これまで、その微細構造や運動機構、シグナル伝達に関して、研究が進められてきた。一方、原生生物から多細胞生物、さらに脊椎動物への進化に伴い、繊毛の構造と機能が多様化した。本研究では、申請者がこれまで培ってきた繊毛構造・機能に関する知識、解析技術を駆使し、生物の体制進化に伴う繊毛構造の多様化と、その分子メカニズムの解明を目指して進めた。本年度の成果としては、(1)ホヤ精子のプロテオミクス解析により、ダイニンサブユニットやカルシウム結合タンパク質、アクチンなど、緑藻類クラミドモナス鞭毛と後生生物ホヤの鞭毛の構成成分の違いが明らかになった。(2)ホヤ内柱と鰓の繊毛のプロテオミクスを行い、内柱に外腕ダイニンが存在しない領域があることを明らかにした。(3)カワリミズカビの培養系と遊走子の運動解析系を確立した。遊走子は高速で前方方向に運動するが、細胞体が抵抗になっていることが明らかになった。(4)マガキガイの異形精子における鞭毛の構造、分布、形成過程を解析した。特に、波動膜中の200本を超える軸糸の形成過程を共焦点レーザー顕微鏡で明らかにした。(5)ウニ胚頂毛に存在する特異的タンパク質GSTT1の機能阻害により、運動軌跡の変化が起こることを明らかにした。また、プロテオミクス解析により、頂毛特異的なタンパク質を複数明らかにした。
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