繊毛は、真核生物における細胞の運動やシグナルの受容に関わる重要な細胞構造であり、進化を通して高度に保存されている。これまで、その微細構造や運動機構、シグナル伝達に関して、研究が進められてきた。一方、原生生物から多細胞生物、さらに脊椎動物への進化に伴い、繊毛の構造と機能が多様化した。 本研究では、生物の体制進化に伴う繊毛構造の多様化と、その分子メカニズムの解明を目的として研究を進め、以下の成果が得られた。(1)我々のグループが発見、命名した運動性鞭毛繊毛の外腕ダイニンのカルシウムセンサー「カラクシン」の機能解析を進め、カラクシンが外腕ダイニンの微小管滑り運動を抑制することにより、非対称波の伝播を司り、結果、精子走化性に重要な役割を果たしていること、(2)マガキガイおよびクシクラゲの解析から、繊毛軸糸を方向性を揃えて配置する機構および構造があること、およびこれらが鞭毛内輸送とは異なる機構で形成される可能性があること、(3)ウニ胚をはじめ、多くの海産無脊椎動物の胚に存在する運動性の乏しい繊毛である「頂毛」には、グルタチオントランスフェラーゼテータが存在し、胚が物体と衝突後に速やかに方向転換する機構に関与していること、運動性が乏しいにも関わらず頂毛には運動性繊毛のほぼすべての軸糸成分が存在することが明らかになった。以上の成果の他、カラクシンがカイメンやカエルツボカビといった生物にも存在していることが明らかとなり、オピストコンタの起源を探る大きなツールを得ることができた。
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